臨床疫学(りんしょうえきがく)分野は、福島県立医科大学大学院医学研究科に新設されました。

初代の指導教員を紺野慎一教授(整形外科学講座)がお務めになられ、その後に福島哲仁教授(衛生学・予防医学講座)が引き継いでくださいました。2019年度より栗田宜明がこの分野を引き継ぐこととなりました。大変身の引き締まる思いでおります。臨床に根差した疫学であるだけに、医療現場や保健福祉の決断に貢献できる研究を、同志とともに発信できるよう、尽力いたします

小職が未熟者であるがゆえに、「単なる数字遊び」にならないよう励んでいただきたいとの激励を、臨床のエキスパートの先生より頂くことがございます。最近は、昔と比べて大集団のデータが容易に手に入りやすくなったために、「単なる数字遊び」に陥る危険性が増しているように思います。小職の師匠であった福原俊一教授(京都大学)より、良い臨床疫学研究は医療者の良いリサーチ・クエスチョンから始まるという心構えをご指導頂いておりました。従って、「良いリサーチ・クエスチョン × 研究の実直な実行 × 相応しい解析 × 理にかなったメッセージの発信」をこれからも心がけてまいります。

さて、ノーベル賞を受賞された本庶先生は研究には6Cが必要であるとおしゃられました[本庶 佑. 独創的研究とは 2000年9月8日]。臨床疫学研究では、少なくとも4つのC(4C)が求められると思っております。

CuriosityのC。疾病の原因解明や医療現場の改善に役立つ、研究知見を積み上げるための原動力は何でしょうか?小職は好奇心を絶やさないことであると思います。改善するには創意工夫が有用であり、好奇心でアンテナを張れるほうが創意工夫をしやすいでしょう。基礎研究でも一緒であると思います。

CommunicationのC。社会や医療現場に役立つ研究は、多くの場合、複数のメンバーが協力しあってはじめて発信することができたと感じております。共同研究者や研究協力者、患者さんとのコミニケーション無しには、臨床疫学研究を推進することができません。

CommitmentのC。研究アイディアの創出や、研究実施中の困難には、ときに粘り強さが必要でした。またチームで行う研究では、一人一人が個々の役割を背負っているために、研究が完遂するまで課せられた役割を果たし続けることが求められます。

CreditのC。1人で問題を解くのとは違って、共同研究者がそれぞれの役割を発揮してはじめて完遂できるのが臨床研究であります。手伝ってもらえて当たり前と思わずに、共同研究者それぞれの役割と貢献を認め、感謝の意を明示する礼儀が求められます。

これらが、Credentials (資質)であると、現時点では信じております。

臨床疫学分野がこれまで研究・教育活動を続けることができたのは、まさしく前に述べた『4C』が備わっていらっしゃる、多くの学内外の先生方のご支援と温かい励ましがあってのことと振り返っております。このご縁とご厚情のありがたさを忘れずに、次世代の臨床疫学研究者の育成に貢献したいと考えております。小職もまだ研鑽を要する身分ですので、大学院生らとともに進化して参りたく存じます。どうかよろしくお願いいたします。

福島県立医科大学 大学院医学研究科
臨床疫学分野 特任教授
栗田宜明