骨・ミネラル代謝異常/MBD

Toida T*, Kurita N*, Abe M, Hanafusa N, Joki N. (*co-first authors)
血清マグネシウム異常が維持血液透析患者の心房細動に与える影響:全国規模の研究
Cardiorenal Medicine 2024; 14: 105–112. doi:10.1159/000536595

血液透析患者における血清マグネシウム値と心房細動の関係を調べた研究です。血液透析治療で2549の施設に通院中の16万5926名を対象に、血清マグネシウム値を、7つのカテゴリー(≦1.5、>1.5-≦2、>2-≦2.5、>2.5-≦3、>3-≦3.5、>3.5-≦4、>4.0mg/dL)に分類して解析を行いました。その結果、基準値(>2.5-≦3mg/dL)と比較して、より低い血清マグネシウム値は心房細動の増加と関連していました(血清マグネシウム値が≦1.5、>1.5-≦2、および>2-≦2.5mg/dLのカテゴリーにおける調整オッズ比はそれぞれ、1.49、1.24、および1.11)。やや高めの血清マグネシウム値は、心房細動の少なさと関連していました(>3.0-≦3.5mg/dLのカテゴリーにおける調整オッズ比は0.87)。血清マグネシウム値の補正が心房細動の発生を減少させるかどうかを明らかにするためには、縦断研究や介入研究による検証が必要です。東邦大学の常喜教授の研究課題に参画し、博士研究員の戸井田先生と主指導教員がリサーチ・クエスチョンの発案と解析論文化でコミットしました。

Tokumoto M, Tokunaga S, Asada S, Endo Y, Kurita N, Fukagawa M, Akizawa T
二次性副甲状腺機能亢進症を有する血液透析患者におけるエボカルセットの高用量投与を要する因子
PLOS ONE 2022; 17: e0279078. doi:10.1371/journal.pone.0279078

第3相データの最終的なエボカルセット(カルシウム受容体作動薬)の投与量に着目し、評価期間(28週~30週)における血清インタクトPTH(iPTH)値、補正カルシウム(Ca)値、リン酸(P)値、安全性が分析されました。また、高用量のエボカルセットの使用を予測する治療開始前の患者特性を評価しました。若年・シナカルセットの使用歴・血清iPTHと補正Ca・プロコラーゲン1型N末端プロペプチド・FGF-23の高値,副甲状腺最大容積の大きさが、高用量のエボカルセット投与と関連していました。肥大した副甲状腺ではカルシウム感受性が低下していること、骨回転が亢進している状態であることが改めて示唆されました。主指導教員が主に分析のアプローチ面からコミットしました。

栗田宜明
腎疾患における臨床研究の進歩 【臨床研究の最新手法】周辺構造モデル
腎と透析 東京医学社 2022; 93巻3号(9月号): 335-340.

腎透析領域の臨床研究で応用されている周辺構造モデル(marginal structural model)について解説しています。特に、周辺構造モデルを必要とする臨床セッティングとクリニカル・クェスチョンの例、周辺構造モデルで用いられる統計モデルの例、解釈の仕方や注意点について説明を試みました。

Inoue H, Shimizu S, Watanabe K, Kamiyama Y, Shima H, Nakase A, Ishida H, Kurita N, Fukuma S, Fukuhara S, Yamada Y
Nephrology Dialysis Transplantation 2018; 33: 676-683. doi:10.1093/ndt/gfx253

血液透析患者の腹部大動脈レベルにおける血管石灰化の2年間の推移(トラジェクトリー)混合軌跡モデリング(Group-based multi-trajectory modeling)でグループ分けされました。石灰化の急激な増加のグループと、研究開始時点で高度な石灰化があり、ゆっくり増加するグループの両方が、その後の悪い生命予後と関連する結果となっていました。

Yokoyama K*, Kurita N*, Fukuma S, Akizawa T, Fukagawa M, Onishi Y, Kurokawa K, Fukuhara S. (*co-first authors)
二次性副甲状腺機能亢進症を伴う血液透析患者における、ミネラル代謝の測定頻度:ガイドライン達成および治療の調節との関係性
Nephrology Dialysis Transplantation 2017; 32: 534–541. doi:10.1093/ndt/gfw020
[ 海外学会の公表記事 ]

血液透析患者の血清カルシウム(Ca),リン(P),副甲状腺ホルモン(PTH)を測定する頻度の目安は、国内外の診療ガイドラインに記されています。しかし、測定頻度の根拠がありませんでした。二次性副甲状腺機能亢進症の血液透析患者3276名が対象の本コホート研究では、日本透析医学会のガイドラインの目標域を超えている場合、血清Caの毎週測定が毎月測定よりも目標域に達しやすく、PTHの毎月測定が3ヵ月毎の測定よりもガイドラインの目標域に達しやすかったことが明らかとなりました。ガイドラインの目標域内にある場合、より頻回な測定によって血清Ca, P, PTHの目標域が維持される可能性は、明らかになりませんでした。教員がリサーチ・クエスチョンの立案・解析・論文化にコミットしました。



Akizawa T*, Kurita N*, Mizobuchi M, Fukagawa M, Onishi Y, Yamaguchi T, Ellis AR, Fukuma S, Alan Brookhart M, Hasegawa T, Kurokawa K, Fukuhara S. (*co-first authors)
二次性副甲状腺機能亢進症を伴う血液透析患者における、シナカルセトのPTH依存的な有効性
Scientific Reports 2016; 6: 19612. doi:10.1038/srep19612
[ 紹介記事(日本骨代謝学会) ]

二次性副甲状腺機能亢進症を合併した血液透析患者において、シナカルセト処方開始の有効性がintact PTHの重症度の別に異なるかどうかを調べました。その結果、シナカルセト処方開始の有効性は、iPTH が高いほど大きい可能性があることが示されました。この研究はステアリング委員の先生によるご指導、iHopeの大西良浩様の支援、東北大学の山口拓洋先生、大阪大学の新谷歩先生らのご助言など、多くの先生方のご協力で実現しました。

Kurita N, Akizawa T, Fukagawa M, Onishi Y, Kurokawa K, Fukuhara S.
二次性副甲状腺機能亢進症を合併症した血液透析患者における、血清マグネシウム異常による生命予後への寄与:3年間のコホート研究
Clinical Kidney Journal 2015; 8: 744-752. doi:10.1093/ckj/sfv097

慢性腎臓病患者で是正すべきミネラル代謝異常の眼目はカルシウムやリンとされています。近年は、マグネシウム(Mg)も注目されるようになりました。本研究はMgが生命予後に寄与する大きさを見える化するために行われたものです。対象は二次性副甲状腺機能亢進症を合併した血液透析患者3276名のコホート(MBD-5D)です。血清Mgと死亡率の関係性は U 字型でした。特に、血清Mg 2.5-2.7mg/dlを基準にすると、血清Mg≦2.5mg/dlでは死亡率が1.6-1.7倍高いことが明らかとなりました。また、血清Mg≦2.5mg/dlが血清Mg 2.5-2.7mg/dlになった場合、集団レベルで約4分の1の死亡が防げる可能性を示唆しました。