ヘルスサービスリサーチ/health service research

Inanaga R, Toida T, Aita T, Kanakubo Y, Ukai M, Toishi T, Kawaji A, Matsunami M, Okada T, Munakata Y, Suzuki T, Kurita N.
Journal of Nephrology 2026; doi:10.1093/joneph/aajag041 (in press)


日本の透析医療では、特定疾病療養制度などによる医療費助成が整備されている一方で、治療費や生活への経済的影響に伴う苦痛(経済毒性)を抱える患者が少なくありません。本研究では全国6施設の血液透析患者455名を対象に調査を行い、約7割が何らかの経済毒性を経験していました。また、経済毒性が強い患者ほど、服薬の煩雑さ・飲み忘れや服薬行動の困難度が高く、その関連には感情的な負担が仲介している可能性が示されました。

Yamamoto S, Goto M, Ikenoue T, Jindai K, Kurita N.
Open Forum Infectious Diseases doi:10.1093/ofid/ofag312 (in press)

日本の抗菌薬適正使用政策が、不要な抗菌薬処方の減少と関連し、重症細菌感染症による入院増加を伴わなかったことを報告しました。
本研究では、2016~2019年度の約300万人の被保険者データを用いて、分割時系列デザインにより抗菌薬適正使用政策の影響を評価しました。対象とした政策は、①2017年6月の「抗微生物薬適正使用の手引き」の公表、②2018年4月の「小児抗菌薬適正使用支援加算」の導入です。
その結果、非細菌性急性呼吸器感染症(ARI)に対する外来抗菌薬処方率は、「抗微生物薬適正使用の手引き」公表後に低下しました。また、「小児抗菌薬適正使用支援加算」導入後には、3歳未満で処方率の低下がみられ、政策対象年齢層への影響が示唆されました。
一方で、いずれの政策後も、ARI関連の重症細菌感染症による入院が全体として増加した明確な証拠は認められませんでした。
本研究は、国レベルの抗菌薬適正使用政策が実臨床に与える影響を示した研究として、今後の感染症対策や医療政策を考える上で重要な知見になると考えられます。
本研究は、大阪大学の山本舜悟先生が研究構想、解析、論文化を主導されました。栗田宜明は、研究計画立案、解析方針の検討、結果の解釈、および論文記載の改善に協力しました。

Kawaji A, Inanaga R, Ukai M, Aita T, Kanakubo Y, Toishi T, Matsunami M, Toida T, Munakata Y, Okada T, Suzuki T, Kurita N.
Therapeutic Apheresis and Dialysis 2026; doi:10.1002/1744-9987.70156 (in press)


ワクチン普及後の血液透析患者におけるCOVID-19への不安と、多面的なヘルスリテラシーとの関連を調査した多施設共同研究です。研究の結果、透析患者のCOVID-19への不安は、パンデミック初期の一般市民より低いことが示されました。一方で、情報を「読んで理解する力」である機能的ヘルスリテラシーが低い患者ほど不安が強く、逆に、情報を「批判的に吟味する力」である批判的ヘルスリテラシーが高い患者ほど不安が強いことが明らかになりました。これらの結果は、医療従事者が患者のリテラシー特性に応じて、平易で理解しやすい情報提供や、情報の適切な解釈を支援することの重要性を示唆しています。本研究は、将来のパンデミック時における患者支援のあり方を考えるうえで重要な知見を提供するものです。

Kurita N.
腎臓診療のための臨床疫学:研究の問いの立て方 ― バイオマーカーから患者報告型アウトカム(PRO)まで
Clinical and Experimental Nephrology 2026; 30: 559–569. doi:10.1007/s10157-026-02822-z


本総説は、腎臓医かつ臨床疫学者の視点から、日常診療で生じるクリニカルクエスチョンを、どのように質の高い臨床研究へと発展させるかを解説した論文です。医療の質を「構造・プロセス・アウトカム」で捉える基本モデルをベースにして、バイオマーカー評価のような従来型の研究から、患者報告アウトカム(PROs)、患者の体験や感情、さらには医療者と患者の関係性といった主観的要素までを、臨床疫学の枠組みの中で体系的に整理しています。臨床統計学的手法そのものだけでなく、「何を問い、なぜそれを問うのか」というリサーチ・クエスチョンをデザインする力の重要性を強調している点が特徴であり、患者を中心に据えた腎臓診療を実現するための臨床研究の考え方を、次世代の医療者・研究者に向けて示しています

Aita T, Miyawaki Y, Katayama Y, Sakurai K, Oguro N, Wakita T, Yajima N, Gupta AB, Kurita N
処方エラー、予約エラー、個人情報が他者に聞こえてしまう経験と医師への信頼低下の関係性
Journal of General and Family Medicine 2026; 27: e70086. doi:10.1002/jgf2.70086

Shibagaki Y, Sofue T, Kawarazaki H, Toida T, Suzuki T, Nishiwaki H, Asano K, Terawaki H, Ito T, Oka H, Nagai K, Murakami M, Nagai K, Komukai D, Adachi T, Furukata S, Tsutsui T, Fujisaki K, Sugitani S, Shimizu H, Nishino T, Asada H, Shimizu H, Tsukamoto T, Nakaya I, Yamada Y, Inanaga R, Yamada S, Nakanishi S, Maeda A, Yamamoto M, Hirashio S, Okamoto T, Nakamura T, Miyoshi K, Kado H, Toda S, Shibata S, Nishi K, Yamamoto M, Naganuma T, Zamami R, Furusho M, Miyasato H, Tamura Y, Raita Y, Fukuhara C, Uehara K, Inoue K, Taki Y, Nakano N, Kurita N#, and the PREPARES Study Group. (#last author)
Kidney International Reports 2025; 10: 2778-2788. doi:10.1016/j.ekir.2025.05.011


腎代替療法の選択は、患者の生活に大きな影響を与える重要な場面であり、患者と医療者が協力して意思決定を行う「協働意思決定(Shared Decision-Making:SDM)」が推奨されています。しかし、日本におけるCKD(慢性腎臓病)患者のSDMに対する理解や実際の経験、そしてSDMが行われたという認識に影響を与える要因については、これまで十分に明らかにされていませんでした。

そこで本研究では、全国49施設の成人CKD患者475名を対象に、腎代替療法を選択した際のSDMに関する調査を行いました。その結果、全体の8割以上が腎代替療法選択時にSDMが行われたと感じていた一方で、調査前からSDMという概念をよく知っていた人はわずか4.7%でした。患者が特に重視したい話題は、「日常生活への影響」「経済的負担」「家族との関係」などで、多くの人が「腎代替療法が必要になる直前」に「複数回にわたる話し合い」の実施を望んでいました。また、腎臓専門医だけでなく、医療ソーシャルワーカーやかかりつけ医(非腎臓専門医)など、さまざまな医療職の関与も重視されていました。SDMの認識と有意に関連していたのは、腎代替療法選択のための外来(看護師の参加と十分な時間が確保された外来)への複数回の受診でした。本研究の結果より、日本の腎代替療法選択において患者は自身の生活に直結する情報を求めており、繰り返しSDMの機会を設ける体制の整備が、今後のCKD診療においてますます重要になると考えられます。

科学研究費補助金の助成(基盤研究(C) 課題番号JP21K10314; 研究代表者:柴垣; 基盤研究(B) 課題番号JP19KT0021 および 挑戦的研究(萌芽) 課題番号JP22K19690; 研究代表者:栗田)を受けたPREPARES研究(PREference for PAtient REnal replacement therapy and Sharing Study)の成果(チームプロダクト)です。主筆は、聖マリアンナ医科大学の柴垣教授が務められました。主指導教員は、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化支援でフルコミットし、日本全国の50の施設でご活躍の腎・透析専門医の先生方とチームで推進しました。[※研究成果が、福島民友 日刊に掲載されました。患者との「対話」ひと工夫を 腎臓病治療の共同意思決定、福島医大グループ調査. 福島民友. 2025年6月18日 日刊3ページ.]

Ichikawa T, Kishida D, Shimojima Y, Yajima N, Oguro N, Yoshimi R, Sakurai N, Hidekawa C, Sada K, Miyawaki Y, Hayashi K, Shidahara K, Ishikawa Y, Sekijima Y, Kurita N#. (#last author)
ソーシャルネットワーキング時代における全身性エリテマトーデス患者の健康情報源に対する信頼度: TRUMP2-SLE研究
The Journal of Rheumatology 2025; 52: 1005-1012. doi:10.3899/jrheum.2024-1088


全身性エリテマトーデス(SLE)をもつ方々が、どこから健康情報を得ているのか? そして、その情報をどのくらい信頼しているのか? さらに、その“信頼度”に影響を与える背景とは?そんな疑問に迫ったのが、この研究です。

最初にアクセスする健康情報源としてはオンライン情報源が最多で、医療機関のWebサイトだけでなく、同じ病をもつ患者さんのブログやSNS(X、Instagramなど)も多くアクセスしていました。しかしながら、SNSを信頼する割合は医師と比べて低いことが判明しました。

特に、機能的なヘルスリテラシー(情報を理解し活用する力)が高い人ほど、SNSを信頼せず、医師への信頼が高い傾向がありました。この結果は、患者さんが診察時に持ってくる“情報の出どころ”や“その情報をどれくらい信じているか”が、個々の背景によって異なる可能性を示しています。

医療者としては、こうした多様な情報源へのアクセス実態をふまえ、どのように対話し、どのプラットフォームを通じて情報発信するかを考えるヒントになるかもしれません。

弊分野の博士研究員でもある、信州大学の市川貴規先生が筆頭の研究論文です。科学研究費補助金の助成(基盤研究(B) 課題番号19KT0021; 研究代表者:栗田; 研究分担者:矢嶋 脇田 佐田 下島 吉見)を受けた♣️TRUMP2-SLE♠️プロジェクト(the Trust Measurement for Physicians and Patients with SLE)の成果です。

Iida H, Hayashi S, Yasunaka M, Tsugihashi Y, Hirose M, Shirahige Y, Kurita N, and the ZEVIOUS group.
BMJ Open 2025; 15: e089639. doi:10.1136/bmjopen-2024-089639


東京、奈良、長崎の3地域で在宅医療を受ける患者を対象に、患者経験(ひらたく言えば、患者さん本位の医療を受けた経験を評価するスコア)QOL(生活の質)、および健康関連希望(ホープ)との関係性を横断的に分析しました。患者経験はプライマリ・ケアの質を反映するJPCAT-SFで評価しました。QOLはQOL-HCスケール(高得点ほど生活の質が高い)で評価し、ホープは健康関連ホープ尺度(HR-Hope)の総スコアで評価しました。その結果、患者経験が良好であるほど、QOLおよびホープのスコアが有意に高いことが明らかとなりました。患者経験のドメイン別に調べても同様の関係性があることも確認できました。
医療法人社団鉄祐会・長崎在宅Dr.ネット・天理よろづ相談所白川分院と奈良県内でご活躍の先生方とチームで行う、ZEVIOUS研究(Zaitaku EValuative Initiatives and OUtcome Study)の成果(チームプロダクト)です。主指導教員が、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化でフルコミットしました。

Katayama Y, Miyawaki Y, Shidahara K, Nawachi S, Asano Y, Katsuyama E, Katsuyama T, Takano-Narazaki M, Matsumoto Y, Oguro N, Yajima N, Ishikawa Y, Sakurai N, Hidekawa C, Yoshimi R, Ohno S, Ichikawa T, Kishida D, Shimojima Y, Sada K, Wada J, Thom DH, Kurita N#. (#last author)
同僚医師の代診の頻度とSLEの患者さんが担当リウマチ医に抱く信頼感の関係性:TRUMP2-SLE研究
Arthritis Research & Therapy 2024; 26: 195. doi:10.1186/s13075-024-03428-0

全身性エリテマトーデス(SLE)患者が担当リウマチ医に抱く信頼度に対して、リウマチ医の代診回数がどのような影響を与えるかを調査しました。過去1年間の代診回数を「なし」「1~3回」「4回以上」の3つに分けて分析した結果、代診回数が1~3回および4回以上のグループでは、担当リウマチ医への信頼度がそれぞれ3.0ポイントおよび4.2ポイント低いことが明らかとなりました。通常の外来診療で、医師の学会研修や病気などで他の医師による代診が避けられないことがあります。この研究結果は、できる限り主治医との継続的な診療を確保しつつ、代診の医師が関わる際に患者の信頼感を維持するための工夫が必要であることを示唆しています。この研究は、科学研究費補助金の助成(挑戦的研究(萌芽) 課題番号22K19690; 研究代表者:栗田, 基盤研究(B) 課題番号19KT0021; 研究代表者:栗田)を受けた♣️TRUMP2♠️-SLEプロジェクト(the Trust Measurement for Physicians and Patients with SLE)の成果の一部です。スタンフォード大学医学部のThom教授、昭和大学の矢嶋先生、高知大学の佐田先生、信州大学の下島先生、横浜市立大学の吉見先生との共同研究として実施され、岡山大学の片山先生・宮脇先生らが論文化しました。主指導教員は、リサーチ・クエスチョンの発案・解析、および論文化のプロセスにおいて役割を果たしました。[※研究成果が、福島民報 日刊に掲載されました。全身性エリテマトーデス患者 主治医への信頼度 代診多いほど低下 福医大のグループが調査. 福島民報. 2025年1月6日 日刊12ページ. また、研究成果が、福島民友 日刊に掲載されました。主治医代行多い→信頼度低く 医大 難病患者への調査. 福島民友. 2024年12月10日 日刊3ページ.]