透析患者において健康関連 QOL(HRQOL)は重要な患者アウトカムであり,疲労や生活への参加が重視されています.本稿では,透析患者の QOL評価法として,包括的尺度である SF-36®v2 と腎疾患特異的尺度であるKDQOL-SFTM を概説し,その特徴と活用上の留意点を整理しました.さらに,J-DOPPS 研究等の知見をもとに,栄養状態や身体機能が QOL と関連することを紹介しました.また,健康関連ホープ(HR-Hope)が食事・水分制限に伴う苦痛の軽減や身体機能の維持と関連する可能性について概説しました.QOL 評価は,患者が望む生活への参加を支援する患者中心の透析医療の実践に重要です.

本研究では、腎代替療法の選択における共同意思決定(Shared Decision-Making: SDM)の根幹となる「患者が自身の価値観を医療者へ伝えること」に着目し、その抵抗感と背景要因を明らかにしました。全国49施設で実施した調査では、約4分の1の患者が私生活や価値観について医療者に話すことへ抵抗を感じており、この抵抗感が強いほどSDMの質が低いことが示されました。さらに、量的・質的データを統合した収斂型混合研究法により、医療者への信頼や健康を優先したいという思いが価値観の開示を後押しする一方で、療法選択への姿勢、性格的特徴などが、価値観を開示できる患者と開示しにくい患者を分ける重要な要因であることが明らかとなりました。
これらの結果から、真に患者中心の腎代替療法選択を実現するためには、医療者が患者一人ひとりの価値観、感情、性格、療法選択への姿勢の多様性を理解し、信頼関係を築きながら意思決定を支援することが重要であることを示しています。本研究は、科学研究費補助金(JP21K10314、JP19KT0021、JP22K19690)の助成を受けたPREPARES研究(PREference for PAtient REnal replacement therapy and Sharing Study)の成果です。栗田が研究構想、量的・質的データの統合解析、および論文執筆を担当し、質的研究の専門家である宮下先生、西村先生と共同で質的データの分析・解釈を行いました。

全国17施設が参加する日本初の小児持続的腎代替療法(jpCRRT)レジストリを、筆頭著者の芳賀先生を中心に構築し、小児集中治療領域における主要腎有害事象(Major Adverse Kidney Events: MAKE)の実態と関連因子を明らかにした研究です。
PICU退室時には50%以上の患児でMAKEを認め、腎疾患・感染症、高い循環作動薬使用量、高カリウム血症が短期予後と関連することを示しました。
本レジストリは、小児CRRTの長期予後の解明やエビデンス創出、治療戦略の最適化を推進する全国共同研究基盤として、今後の発展が期待されます。
本研究では、指導教員の栗田が研究デザイン・解析計画の立案、解析の監督、論文構成および編集を担当し、研究全体を支援しました。
本研究では、福島県および山梨県の医療機関の協力のもと、診療録を用いた包括的なデータ収集を実施し、比較対照を備えた分割時系列デザイン(controlled interrupted time-series)により、福島第一原子力発電所事故前後における停留精巣発生率の変化を検証しました。その結果、原発事故後に停留精巣発生率が増加したことを示す疫学的証拠は認められませんでした。
栗田は前任の福島県立医科大学 臨床研究教育推進部において、研究デザイン、解析計画の策定、および統計解析の監修(実解析:大前憲史先生) を担当しました。本研究は、多施設でのデータ収集を主導された福島県立医科大学泌尿器科学講座の先生方、比較地域である山梨県でのデータ収集にご尽力いただいた山梨大学泌尿器科学講座の先生方、さらに放射線医学など多分野の研究者との共同研究として実施された、環境省 放射線健康管理・健康不安対策事業(放射線の健康影響に係る研究調査事業) の成果によるものです。
長年にわたり本研究を牽引された小島祥敬先生をはじめ、共同研究者の皆様に深く敬意を表します。
日本の抗菌薬適正使用政策が、不要な抗菌薬処方の減少と関連し、重症細菌感染症による入院増加を伴わなかったことを報告しました。
本研究では、2016~2019年度の約300万人の被保険者データを用いて、分割時系列デザインにより抗菌薬適正使用政策の影響を評価しました。対象とした政策は、①2017年6月の「抗微生物薬適正使用の手引き」の公表、②2018年4月の「小児抗菌薬適正使用支援加算」の導入です。
その結果、非細菌性急性呼吸器感染症(ARI)に対する外来抗菌薬処方率は、「抗微生物薬適正使用の手引き」公表後に低下しました。また、「小児抗菌薬適正使用支援加算」導入後には、3歳未満で処方率の低下がみられ、政策対象年齢層への影響が示唆されました。
一方で、いずれの政策後も、ARI関連の重症細菌感染症による入院が全体として増加した明確な証拠は認められませんでした。
本研究は、国レベルの抗菌薬適正使用政策が実臨床に与える影響を示した研究として、今後の感染症対策や医療政策を考える上で重要な知見になると考えられます。
本研究は、大阪大学の山本舜悟先生が研究構想、解析、論文化を主導されました。栗田宜明は、研究計画立案、解析方針の検討、結果の解釈、および論文記載の改善に協力しました。
血液透析を受けている患者さんにとって、将来の病状の変化があった場合の治療方針について、あらかじめ自分の意向を考え、家族や医療者と話し合っておくことは重要です。こうした将来の医療やケアについての話し合いは「アドバンスケアプランニング(Advance Care Planning:ACP)」と呼ばれています。
一方で、ACPに参加するためには、病気や治療について情報を理解するだけでなく、その情報をもとに自分で考え、必要な情報を探したり、医療者と話し合ったりする力も必要です。
私たちは、このようなヘルスリテラシー(健康に関する情報を入手・理解し、判断や行動に活用する力)が、透析患者さんのACPへの参加とどのように関係しているのかを調べました。
日本の6施設で血液透析を受けている成人患者を対象に調査したところ、約半数の患者さんが、家族や医療者と将来の治療やケアについて何らかの話し合いをしていました。一方で、医療者を交えた正式なACPの機会を経験していた患者さんは5%にとどまりました。
興味深いことに、自分で情報を吟味し、考え、判断する「批判的ヘルスリテラシー」が高い患者さんほど、日常的なACPに参加していることが分かりました。一方、ヘルスリテラシー全体が高い患者さんでは、正式なACPへの参加も多いことが示されました。また、将来どのような治療を受けたいのか「まだ決められていない」と答えた患者さんでは、ヘルスリテラシーが低い傾向がみられました。
さらに、ACPについて話し合っていない患者さんに、その理由を尋ねたところ、最も多かったのは「話し合う機会がないから」という回答でした。つまり、ACPが進まない理由は、患者さん自身が関心を持っていないことだけではなく、そもそも患者さんが将来について考え、医療者と話し合うための「きっかけ」が十分に提供されていない可能性があります。
これらの結果から、透析医療における患者中心の意思決定を進めるためには、患者さんのヘルスリテラシーを高める取り組むことと、医療者側からACPについて話し合う機会を体系的に提供することが重要であると考えられます。患者さんが「自分はどうしたいのか」を考え、それを家族や医療者と共有できる環境をつくることが、より患者中心の透析医療につながる可能性があります。



