透析/dialysis

Inanaga R, Toida T, Aita T, Kanakubo Y, Ukai M, Toishi T, Kawaji A, Matsunami M, Okada T, Munakata Y, Suzuki T, Kurita N#. (#corresponding author)
血液透析患者における医師への信頼、多次元ヘルスリテラシー、服薬アドヒアランスの関係性
Clinical Journal of the American Society of Nephrology 2024; 19: 463-471. doi:10.2215/CJN.0000000000000392

日本の血液透析患者を対象に質問紙調査を行い、健康に関する情報を入手して適切に活用する力(ヘルスリテラシー)が服薬を指示通りに続ける程度(服薬の遵守度)にどのように影響するか、またこの影響が医師への信頼度によってどのように中継されるかを調査しました。

その結果、機能的なヘルスリテラシーと伝達的なヘルスリテラシーは、服薬の遵守度と良い関係があることが分かりましたが、批判的なヘルスリテラシーが高いと服薬の遵守度が低下する傾向がありました。さらに、これらのヘルスリテラシーと服薬の遵守度の関係は、医師への信頼によって中継される可能性が示されました。言いかえると、健康情報を理解する力が高いほど、服薬の遵守度が高くなりますが、これは医師の治療の説明などに対する信頼が役割を果たしており、信頼するほど医師の指示通りに服薬を続けられる傾向があるという考えを、研究が支持しました。
この結果から、血液透析患者の服薬の遵守度を向上させるためには、適切なヘルスリテラシーに対応したアプローチだけでなく、医師との信頼関係の構築も重要であることが確認できました。[※研究成果が、福島民報 日刊に掲載されました。福島医大 人工透析患者の服薬行動調査 効用に懐疑で中断の傾向 稲永医師、栗田特任教授のチーム. 福島民報. 2024年1月31日 日刊21ページ. また、研究成果が、福島民友 日刊に掲載されました。医療情報 積極収集する患者 服薬順守度高く 福島医大の稲永医師ら調査. 福島民友. 2024年1月31日 日刊19ページ.]

Nakashima A, Miyawaki Y, Komaba H, Kurita N, Onishi Y, Yokoo T, Fukagawa M.
血液透析患者におけるプロトンポンプ阻害薬と赤血球造血刺激因子への低反応性:J-DOPPS研究
American Journal of Nephrology 2024; 55: 165-174. doi:10.1159/000534701

本研究は、血液透析患者におけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)と赤血球造血刺激因子(ESA)抵抗性貧血との関連性を検証しました。これは、鉄の吸収を阻害する可能性があるPPIが、貧血を引き起こす可能性があるという以前の懸念を具体的なデータで裏付けたものです。
Japan Dialysis Outcomes and Practice Patterns Studyの反復測定データを活用した結果、PPI使用者においてエリスロポエチン抵抗性指標(ERI)が高いことが示されました(差分:0.95 IU/週/kg/(g/dl)。ESA投与量(差分:336 IU/週)およびエリスロポエチン抵抗性貧血(割合差:3.9%)にも、明確な差が見られました。また、PPI使用者では、PPIとESA抵抗性貧血を媒介する可能性があると考えられるTSATが低いことも示されました(差分:-0.82%)。
この知見は、PPI使用者が測定の難しい潜在的な消化管出血の病態を反映している可能性がある点に注意が必要です。しかし、同時に、PPI使用者がこの集団の過半数を占めるため(52.7%)、貧血治療の改善が十分でない場合には治療薬の増量だけでなく、PPIの処方の見直しやPPIの処方を必要とする病態を見直すきっかけになるかもしれません。
東京慈恵会医科大学の中島章雄先生がリサーチ・クエスチョンを発案され、主指導教員は研究デザインと解析計画の面で主にコミットしました。

柴垣有吾, 栗田宜明 (担当:共編著者)
臨牀透析2023年9月 日本メディカルセンター 2023; 39: 128.

臨牀透析2023年9月の特集がホープになった!ということで、健康関連ホープ尺度の開発と応用でご一緒させて頂いている柴垣有吾先生より、石橋由孝先生(日本赤十字社医療センター腎臓内科)とともに企画段階からお声掛けいただき、共同編集者として特集に取り組ませて頂きました。
この特集では、主指導教員が尊敬する臨床や研究の同僚や先輩方に玉稿を寄せて頂きました。具体的には、腎透析臨床の実践者や、人生の終末期の心理や意思決定に焦点を当てて診療と研究を行う臨床家、行動医学の専門家に、診療現場での希望の意義やアプローチの仕方について理解を深めることができるよう、具体的にわかりやすくご執筆頂きました
読者の皆様が透析患者さんとより良い治療関係を築き、患者さんの充実した疾病ライフを支えるための一助となることを願ってやみません。

Tokumoto M, Tokunaga S, Asada S, Endo Y, Kurita N, Fukagawa M, Akizawa T
二次性副甲状腺機能亢進症を有する血液透析患者におけるエボカルセットの高用量投与を要する因子
PLOS ONE 2022; 17: e0279078. doi:10.1371/journal.pone.0279078

第3相データの最終的なエボカルセット(カルシウム受容体作動薬)の投与量に着目し、評価期間(28週~30週)における血清インタクトPTH(iPTH)値、補正カルシウム(Ca)値、リン酸(P)値、安全性が分析されました。また、高用量のエボカルセットの使用を予測する治療開始前の患者特性を評価しました。若年・シナカルセットの使用歴・血清iPTHと補正Ca・プロコラーゲン1型N末端プロペプチド・FGF-23の高値,副甲状腺最大容積の大きさが、高用量のエボカルセット投与と関連していました。肥大した副甲状腺ではカルシウム感受性が低下していること、骨回転が亢進している状態であることが改めて示唆されました。主指導教員が主に分析のアプローチ面からコミットしました。

栗田宜明
腎疾患における臨床研究の進歩 【臨床研究の最新手法】周辺構造モデル
腎と透析 東京医学社 2022; 93巻3号(9月号): 335-340.

腎透析領域の臨床研究で応用されている周辺構造モデル(marginal structural model)について解説しています。特に、周辺構造モデルを必要とする臨床セッティングとクリニカル・クェスチョンの例、周辺構造モデルで用いられる統計モデルの例、解釈の仕方や注意点について説明を試みました。

栗田宜明, 河原崎宏雄, 石橋由孝, 柴垣有吾
第3章 腎代替療法の現状と問題点,求められるケア 2 世界の腎代替療法の現状と問題点① 新しい予後指標:PRO(patient-reported outcome)
腎代替療法のすべて 腎と透析 東京医学社 2022; 2022年92巻増刊号: 93-98.

透析における臨床研究で用いられるPROと身体データとのつながり、PROの使い道、健康関連ホープ尺度について解説しています。

Kurita N#, Wakita T, Fujimoto S, Yanagi M, Koitabashi K, Suzuki T, Yazawa M, Kawarazaki H, Shibagaki Y, Ishibashi Y. (#corresponding author)
ホープレス(絶望感)とうつが進行期慢性腎臓病と透析患者のサルコペニアを予測する:多施設コホート研究
The Journal of Nutrition, Health & Aging 2021; 25: 593-599. doi:10.1007/s12603-020-1556-4

私たちは、成人の慢性腎臓病(CKD)患者において、健康関連ホープ尺度(HR-Hope)/うつとサルコペニアの関係性を長期的に分析しました。その結果、HR-Hopeスコアが低いほど、サルコペニアになる可能性が示されました。さらに、抑うつを抱えることも、独立した要因としてサルコペニアを引き起こす可能性があることがわかりました。この研究は、ヨーロッパ臨床栄養・代謝学会(ESPEN)ヨーロッパ腎臓学会・ヨーロッパ腎栄養グループ(ERN-ERA)によってまとめられた、高齢のCKD患者向けのタンパク質・エネルギー摂取量の指針とするためのレビュー論文(Piccoli GB et al. Clinical Nutrition 2023)に引用されました。
この研究は、科学研究費補助金の助成を受けて実施されたものです(基盤研究(B) 課題番号16H05216, 研究代表者:柴垣有吾, 研究分担者:福原 脇田 栗田; 若手研究 課題番号18K17970)。

Kurita N#, Wakita T, Ishibashi Y, Fujimoto S, Yazawa M, Suzuki T, Koitabashi K, Yanagi M, Kawarazaki H, Green J, Fukuhara S, Shibagaki Y. (#corresponding author)
慢性腎臓病患者における健康関連ホープと治療のアドヒアランスとの関係性:多施設横断研究
BMC Nephrology 2020; 21: 453. doi:10.1186/s12882-020-02120-0

成人の慢性腎臓病(CKD)の病期(ステージ)と健康関連ホープ尺度(HR-Hope)との関係性、およびHR-Hopeとアドヒアランスの負担感・身体指標との関係性を横断的に分析しました。HR-Hopeスコアが高いほど、水分制限・食事制限の負担感が軽く、収縮期血圧が高くないことがわかりました。HR-Hopeスコアは、保存期ステージ5の参加者で最も低く、ステージ5DのHR-Hopeスコアはステージ4と同程度でした。
CKDの治療アドヒアランスは、健康に関連するホープをどの程度持っているかに依存しており、そのホープはCKDの病期によって異なる可能性があることを示しました。
科学研究費補助金の助成(基盤研究(B) 課題番号16H05216; 研究代表者:柴垣有吾; 研究分担者:福原 脇田 栗田)を受けて実施した研究です。のちに、腎代替療法についての選択肢を患者さんが理解するための対話法に関するトピックを掲載している米国NPOのウェブサイト記事の中で、本研究論文が引用されました[米国Home Dialysis Central:How to Talk to Patients About Home Dialysis: Four Steps for Professionals]。

Honda H, Kimachi M, Kurita N, Joki N, Nangaku M.
日本の血液透析患者では高いMCVの値よりも低いMCVの値が予後と関連する:J-DOPPS研究
Scientific Reports 2020; 10: 15663. doi:10.1038/s41598-020-72765-2

MCV(平均赤血球容積)と予後などの臨床アウトカムとの関係性を検討した研究です。先行研究によると、国外のCKD患者ではMCVの値が高い方が生命予後が悪いとされていました。日本の血液透析患者では、MCVの値が低い方が、死亡および感染症入院の増加につながることが本研究より判明しました。日本の患者への診療のために、海外の観察研究の結果を頼りにするのは良いとは限らないことを示した事例と感じました。本田浩一教授(昭和大学)がクリニカル・クエスチョンを発案され、京都大学の来海先生が解析されました。主指導教員はご縁をいただき、研究計画および解析方針に対する助言と支援を重点にコミットさせていただきました。

Iida H, Fujimoto S, Wakita T, Yanagi M, Suzuki T, Koitabashi K, Yazawa M, Kawarazaki H, Ishibashi Y, Shibagaki Y, Kurita N#. (#corresponding author)
進行期の慢性腎臓病と透析における心理的柔軟性(アクセプタンス)とうつ発生の関係性
Kidney Medicine 2020; 2: 684-691.e681. doi:10.1016/j.xkme.2020.07.004

マインドフルネス領域では、心理学的柔軟性(psychological flexibility)が注目を浴びています。心理学的柔軟性は、病と共に生きる患者が病気の体験をどのように受け入れるか-すなわち受容(acceptance)-を包含する概念といえます。他方で、うつは慢性腎臓病に多く、患者さんにとって重要な健康問題として認識されています。保存期慢性腎臓病と透析の患者において、心理学的柔軟性を測定するAAQ-II(Acceptance and Action Questionnaire-II)が良好であるほど-言い換えると、受容が良好であるほど-、うつの発生が少ないことが明らかにされました。慢性腎臓病患者のうつの予防や治療の手段として、心理学的柔軟性を高めるような行動療法(例えば、acceptance and commitment therapy)が有用である可能性を示唆しました。