慢性腎臓病/CKD

Nakashima A, Miyawaki Y, Komaba H, Kurita N, Onishi Y, Yokoo T, Fukagawa M.
血液透析患者におけるプロトンポンプ阻害薬と赤血球造血刺激因子への低反応性:J-DOPPS研究
American Journal of Nephrology 2024; 55: 165-174. doi:10.1159/000534701

本研究は、血液透析患者におけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)と赤血球造血刺激因子(ESA)抵抗性貧血との関連性を検証しました。これは、鉄の吸収を阻害する可能性があるPPIが、貧血を引き起こす可能性があるという以前の懸念を具体的なデータで裏付けたものです。
Japan Dialysis Outcomes and Practice Patterns Studyの反復測定データを活用した結果、PPI使用者においてエリスロポエチン抵抗性指標(ERI)が高いことが示されました(差分:0.95 IU/週/kg/(g/dl)。ESA投与量(差分:336 IU/週)およびエリスロポエチン抵抗性貧血(割合差:3.9%)にも、明確な差が見られました。また、PPI使用者では、PPIとESA抵抗性貧血を媒介する可能性があると考えられるTSATが低いことも示されました(差分:-0.82%)。
この知見は、PPI使用者が測定の難しい潜在的な消化管出血の病態を反映している可能性がある点に注意が必要です。しかし、同時に、PPI使用者がこの集団の過半数を占めるため(52.7%)、貧血治療の改善が十分でない場合には治療薬の増量だけでなく、PPIの処方の見直しやPPIの処方を必要とする病態を見直すきっかけになるかもしれません。
東京慈恵会医科大学の中島章雄先生がリサーチ・クエスチョンを発案され、主指導教員は研究デザインと解析計画の面で主にコミットしました。

柴垣有吾, 栗田宜明 (担当:共編著者)
臨牀透析2023年9月 日本メディカルセンター 2023; 39: 128.

臨牀透析2023年9月の特集がホープになった!ということで、健康関連ホープ尺度の開発と応用でご一緒させて頂いている柴垣有吾先生より、石橋由孝先生(日本赤十字社医療センター腎臓内科)とともに企画段階からお声掛けいただき、共同編集者として特集に取り組ませて頂きました。
この特集では、主指導教員が尊敬する臨床や研究の同僚や先輩方に玉稿を寄せて頂きました。具体的には、腎透析臨床の実践者や、人生の終末期の心理や意思決定に焦点を当てて診療と研究を行う臨床家、行動医学の専門家に、診療現場での希望の意義やアプローチの仕方について理解を深めることができるよう、具体的にわかりやすくご執筆頂きました
読者の皆様が透析患者さんとより良い治療関係を築き、患者さんの充実した疾病ライフを支えるための一助となることを願ってやみません。

Okamura S*, Nishiwaki H*, Niihata K*, Tsujii S, Ishii H, Hayashino Y, Kurita N, and Diabetes Distress and Care Registry at Tenri Study Group. (*equally contributed)
2型糖尿病患者における身体活動レベルと腎機能低下との関連性:前向きコホート研究
Journal of Nephrology 2023; 36: 2657–2660. doi:10.1007/s40620-023-01691-z

2型糖尿病の方を対象に、身体活動レベルが高いほど、腎機能低下の発生が少ないことを検証したコホート研究が行われました。3397名を対象にしました。具体的には、「中等度の身体活動レベル」とは、軽い荷物を持ったり、一定のペースで自転車をこいだりといった活動を、週に5日以上、30分以上行うことなどを指します。「高い身体活動レベル」とは、週に3日以上ランニングを行うことなどを意味します。腎機能低下は、推定GFR(糸球体濾過量)の30%の低下で評価されました。この研究の結果、身体活動レベルが高いほど、腎機能低下の発生が少ない関係性は、糖尿病性腎臓病の方にも当てはまることが確認されました。主筆は天理よろづ相談所病院の岡村先生であり、主指導教員は解析と論文化にコミットしました。また、林野泰明先生(天理よろづ相談所病院)もメンターの一人として関与し、糖尿病の臨床における一般的な疑問に答えることができました。

栗田宜明, 河原崎宏雄, 石橋由孝, 柴垣有吾
第3章 腎代替療法の現状と問題点,求められるケア 2 世界の腎代替療法の現状と問題点① 新しい予後指標:PRO(patient-reported outcome)
腎代替療法のすべて 腎と透析 東京医学社 2022; 2022年92巻増刊号: 93-98.

透析における臨床研究で用いられるPROと身体データとのつながり、PROの使い道、健康関連ホープ尺度について解説しています。

Nishiwaki H*, Niihata K*, Kinoshita M, Fujimura M, Kurosawa K, Sakuramachi Y, Takano K, Matsunaga S, Okamura S, Kitatani M, Tsujii S, Hayashino Y, Kurita N. (*equally contributed)
糖尿病で持続的な微量アルブミン尿への進展を予測する尿中C-メガリン:コホート研究
Diabetes Research and Clinical Practice 2022; 186: 109810. doi:10.1016/j.diabres.2022.109810

尿中バイオマーカーの1つ、C-megalinが、早期の糖尿病性腎症(微量アルブミン尿の持続)の発症を予測するか否かを検証したコホート研究です。1型糖尿病と2型糖尿病の方752名を対象にしました。尿中C-megalin・クレアチニン比は、尿中アルブミンの量が少ない状態であるほど、微量アルブミン尿の発生との関係性が強くなることが示されました。また、尿中アルブミンに尿中C-megalinを上乗せすることで、持続する微量アルブミン尿の発症予測が改善する可能性も示されました。主指導教員が、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化を進めました。メンターのお1人であった林野泰明先生(天理よろづ相談所病院)のご支援や、きっかけを作ってくださった淺沼克彦教授(千葉大学)や福原教授(京都大学)など、多くのご縁のお蔭で第二弾を可視化することができました。[※研究成果が、福島民報 日刊に掲載されました。糖尿病患者、腎臓での合併症 予測に新検査法「有効」. 福島民報. 2022年3月29日 日刊25ページ. また、福島民友に掲載されました。糖尿病性腎症の発症予測 検査方法開発へ 福島医大. 福島民友. 2022年4月1日 日刊3ページ.]

Kurita N#, Kinoshita M, Fujimura M, Kurosawa K, Sakuramachi Y, Takano K, Okamura S, Kitatani M, Tsujii S, Norton CE, Hayashino Y. (#corresponding author)
糖尿病における尿中C-メガリンとアルブミン尿・腎機能の関係性:横断研究
Journal of Nephrology 2022; 35: 201–210. doi:10.1007/s40620-021-00995-2

尿中バイオマーカーの1つ、C-megalinが、腎機能やアルブミン尿を反映するか否かを検証した横断研究です。1型糖尿病と2型糖尿病の方1576名を対象にしました。尿中C-megalin濃度と、尿中C-megalin・クレアチニン比はいずれもアルブミン尿の増加とともに上昇することがわかりました。腎機能が保たれているステージに限っては、腎機能が低くなるほど尿中C-megalin濃度の値が高くなる可能性が示されました。C-megalinの臨床的意義については、縦断的な検証が必要です。主指導教員が、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化を進めました。メンターのお1人であった林野泰明先生(天理よろづ相談所病院)のご支援や、きっかけを作ってくださった淺沼克彦教授(千葉大学)や福原教授(京都大学)、分析のご助言をくださったNorton教授(ミシガン大学)など、多くのご縁のお蔭で第一弾を可視化することができました。

Kurita N#, Wakita T, Fujimoto S, Yanagi M, Koitabashi K, Suzuki T, Yazawa M, Kawarazaki H, Shibagaki Y, Ishibashi Y. (#corresponding author)
ホープレス(絶望感)とうつが進行期慢性腎臓病と透析患者のサルコペニアを予測する:多施設コホート研究
The Journal of Nutrition, Health & Aging 2021; 25: 593-599. doi:10.1007/s12603-020-1556-4

私たちは、成人の慢性腎臓病(CKD)患者において、健康関連ホープ尺度(HR-Hope)/うつとサルコペニアの関係性を長期的に分析しました。その結果、HR-Hopeスコアが低いほど、サルコペニアになる可能性が示されました。さらに、抑うつを抱えることも、独立した要因としてサルコペニアを引き起こす可能性があることがわかりました。この研究は、ヨーロッパ臨床栄養・代謝学会(ESPEN)ヨーロッパ腎臓学会・ヨーロッパ腎栄養グループ(ERN-ERA)によってまとめられた、高齢のCKD患者向けのタンパク質・エネルギー摂取量の指針とするためのレビュー論文(Piccoli GB et al. Clinical Nutrition 2023)に引用されました。
この研究は、科学研究費補助金の助成を受けて実施されたものです(基盤研究(B) 課題番号16H05216, 研究代表者:柴垣有吾, 研究分担者:福原 脇田 栗田; 若手研究 課題番号18K17970)。

Kurita N#, Wakita T, Ishibashi Y, Fujimoto S, Yazawa M, Suzuki T, Koitabashi K, Yanagi M, Kawarazaki H, Green J, Fukuhara S, Shibagaki Y. (#corresponding author)
慢性腎臓病患者における健康関連ホープと治療のアドヒアランスとの関係性:多施設横断研究
BMC Nephrology 2020; 21: 453. doi:10.1186/s12882-020-02120-0

成人の慢性腎臓病(CKD)の病期(ステージ)と健康関連ホープ尺度(HR-Hope)との関係性、およびHR-Hopeとアドヒアランスの負担感・身体指標との関係性を横断的に分析しました。HR-Hopeスコアが高いほど、水分制限・食事制限の負担感が軽く、収縮期血圧が高くないことがわかりました。HR-Hopeスコアは、保存期ステージ5の参加者で最も低く、ステージ5DのHR-Hopeスコアはステージ4と同程度でした。
CKDの治療アドヒアランスは、健康に関連するホープをどの程度持っているかに依存しており、そのホープはCKDの病期によって異なる可能性があることを示しました。
科学研究費補助金の助成(基盤研究(B) 課題番号16H05216; 研究代表者:柴垣有吾; 研究分担者:福原 脇田 栗田)を受けて実施した研究です。のちに、腎代替療法についての選択肢を患者さんが理解するための対話法に関するトピックを掲載している米国NPOのウェブサイト記事の中で、本研究論文が引用されました[米国Home Dialysis Central:How to Talk to Patients About Home Dialysis: Four Steps for Professionals]。

Iida H, Fujimoto S, Wakita T, Yanagi M, Suzuki T, Koitabashi K, Yazawa M, Kawarazaki H, Ishibashi Y, Shibagaki Y, Kurita N#. (#corresponding author)
進行期の慢性腎臓病と透析における心理的柔軟性(アクセプタンス)とうつ発生の関係性
Kidney Medicine 2020; 2: 684-691.e681. doi:10.1016/j.xkme.2020.07.004

マインドフルネス領域では、心理学的柔軟性(psychological flexibility)が注目を浴びています。心理学的柔軟性は、病と共に生きる患者が病気の体験をどのように受け入れるか-すなわち受容(acceptance)-を包含する概念といえます。他方で、うつは慢性腎臓病に多く、患者さんにとって重要な健康問題として認識されています。保存期慢性腎臓病と透析の患者において、心理学的柔軟性を測定するAAQ-II(Acceptance and Action Questionnaire-II)が良好であるほど-言い換えると、受容が良好であるほど-、うつの発生が少ないことが明らかにされました。慢性腎臓病患者のうつの予防や治療の手段として、心理学的柔軟性を高めるような行動療法(例えば、acceptance and commitment therapy)が有用である可能性を示唆しました。

Fukuhara S*, Kurita N*#, Wakita T, Green J, Shibagaki Y. (*co-first authors; #corresponding author)
健康関連ホープ(HR-Hope)を測定する尺度:開発と計量心理学的検証
Annals of Clinical Epidemiology 2019; 1: 102-119. doi:10.37737/ace.1.3_102

私たちは、健康に関わる「ホープ」(希望)という概念を測定することを目的に、18項目からなる「健康関連ホープ尺度(HR-Hope)」を開発し、計量心理学的に検証しました。この尺度は、「健康と病/Health & illness」、「役割と社会的なつながり/Role & social connectedness」、「生きがい/Something to live for」という3つの領域から構成されています。私たちの研究では、この尺度が高い信頼性係数を示し、一般的に使われている希望尺度よりも優れた基準関連妥当性があることがわかりました。これにより、治療が困難な疾患を抱える患者さんや超高齢者を対象にした研究において、有用なアウトカム指標として活用されることが期待されます。さらに、この尺度は、健康行動を決定する上での心理的な要因の1つとしても活用されることが期待されます。科学研究費補助金を受けて、この研究を実施しました(基盤研究(B) 課題番号16H05216; 研究代表者:柴垣有吾; 研究分担者:福原 脇田 栗田)。全文読めます[free-fulltext]。