業績

Kurita N, Maeshibu T, Aita T, Wakita T, Kikuchi H.
BioPsychoSocial Medicine 2025; 19: 15. doi:10.1186/s13030-025-00337-9

肥満は個人の生活習慣の問題にとどまらず、社会や行政が取り組む健康政策(パブリックヘルス)においても重要な課題です。私たちの研究では、「やり抜く力(グリット)」と肥満の関係を、日本の成人を対象に調べました。
その結果、グリットが高い人ほど「肥満ではない」傾向があることが分かりました。さらに詳しく分析すると、この関係は「コントロール不能な食べすぎ(制御不能な摂食)」や「感情的な食べすぎ(感情的摂食)」が少ないことを通じて説明できることが明らかになりました。
つまり、グリットと肥満の関連は、グリットが高い人ほど食行動をより適切に保ちやすいことと結びついている、という間接的なメカニズムによる可能性が示唆されました。
この研究は、肥満対策を考える上で「個人の性格そのものに注目する」のではなく、「食行動という具体的な行動に働きかけること」が重要であることを示しています。
科学研究費補助金の助成(基盤研究(B) 課題番号JP22H03317; 研究代表者:栗田)を受けた研究の成果(チームプロダクト)です。

Kawabata S, Kurita N, Nikaido T, Tominaga R, Endo Y, Fujita N, Konno Si, Ohtori S, and Clinical Research Committee of the Japanese Society of Lumbar Spine Disorders.
PLOS ONE 2025; 20: e0328684. doi:10.1371/journal.pone.0328684

2023年に、日本腰痛学会が全国の20〜90歳の成人を対象に、訪問調査による大規模な腰痛の疫学を実施しました(調査報告書はこちら)。本研究ではその調査データをもとに、「生活習慣と腰痛との関係」について分析しました。その結果、現在腰痛のある人は、体重(BMI)が高いこと、喫煙していること、血中脂質の異常(脂質異常症)といった生活習慣と関係があることが分かりました。さらに、腰痛が重い人では、喫煙、運動不足、脂質異常症の傾向が強いことも明らかになりました。また、喫煙は慢性的な腰痛とも関係している可能性があることが示されました。今後は、これらの生活習慣が腰痛の「原因」になっているのか、あるいは「悪化させる要因」なのかを明らかにするため、時間を追って観察する縦断研究が求められます。この論文は、本学の整形外科学講座の二階堂先生・遠藤先生、博士研究員の富永先生とともに参画したもので、藤田医科大学の整形外科学講座の先生方が主導しました。

Nakagawa H, Takeshima T, Ozaka A, Sasaki S, Kurita N, Hamaguchi S, Fukuhara S
日本の地域在住高齢者における睡眠の質の悪さは便秘の危険因子である
Cureus 2023; 15: e46175. doi:10.7759/cureus.46175

須賀川市の後期高齢者1696名を対象に、睡眠の質と便秘の1年間の発生の関係性を調査しました。睡眠の質が悪いほど、便秘の発生が多い傾向にあることがわかりました。総合内科の中川先生が着想し、主指導教員は、分析と論文化でコミットしました。臨床研究イノベーションセンターのOBの努力の恩恵を受けて行うことができた研究です。

Shibata Y, Omae K, Minemura H, Suzuki Y, Nikaido T, Tanino Y, Fukuhara A, Kanno R, Saito H, Suzuki S, Ishii T, Inokoshi Y, Sando E, Sakuma H, Kobayashi T, Kume H, Kamimoto M, Aoki H, Takama A, Kamiyama T, Nakayama M, Saito K, Tanigawa K, Sato M, Kanbe T, Kanzaki N, Azuma T, Sakamoto K, Nakamura Y, Otani H, Waragai M, Maeda S, Ishida T, Sugino K, Inage M, Hirama N, Furuyama K, Fukushima S, Saito H, Machiya J-i, Machida H, Abe K, Iwabuchi K, Katagiri Y, Aida Y, Abe Y, Ota T, Ishizawa Y, Tsukada Y, Yamada R, Sato R, Onuma T, Tomita H, Saito M, Watanabe N, Rikimaru M, Kawamata T, Umeda T, Morimoto J, Togawa R, Sato Y, Saito J, Kanazawa K, Kurita N, Iseki K.
軽症/中等症の新型コロナウイルス感染症の重症化予測
BMC Pulmonary Medicine 2023; 23: 312. doi:10.1186/s12890-023-02604-3

呼吸器内科学講座教授の 柴田 陽光 先生が主筆の論文です。軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症の重症化を5つの臨床情報から予測するスコアを開発し、外部検証した研究です。65歳未満の方を対象としており、糖尿病、肥満、年齢、体温、酸素飽和度をもとに、重症化予測が可能です(予測スコアの計算はこちらからできます:https://shibatay8.wixsite.com/doats-score--a-simpl/post/doats-score)。幣分野の 栗田 宜明 と臨床研究教育推進部で同僚の大前憲史がご縁をいただき、解析の面から論文化にコミットさせていただきました。ワクチンが普及する前、かつオミクロン変異株の流行前に行われた研究であり、いまの状況でも同じような性能になるのかどうか、さらなる検証が必要です。

Takahashi S, Naganuma T, Kurita N#, Omae K, Ohnishi T, Yoshioka T, Ito F, Takeshima T, Fukuma S, Hamaguchi S, Fukuhara S. (#corresponding author)
地域在住高齢者における社会的孤立・孤独感と歯の喪失の関係: 須賀川研究
Innovation in Aging 2023; 7: 1-8. doi:10.1093/geroni/igad065

須賀川市の後期高齢者4645名を対象に、孤独感、社会的孤立と口腔内の健康との関連を横断的に調査しました。社会的孤立よりも孤独感の方が、歯の喪失や歯磨き頻度の低下と関連しました。総合内科の高橋世先生が着想し、長沼透先生と一緒に論文化されました。主指導教員は、研究デザインと解析論文化でコミットしました。臨床研究イノベーションセンターのOBの努力の恩恵を受けて行うことができた研究です。

Sato M, Tominaga R, Kurita N, Sekiguchi M, Otani K, Konno Si, Oi N
地域在住高齢者における嚥下障害と運動機能の関連性
Geriatrics & Gerontology International 2023; 23: 603-608. doi:10.1111/ggi.14632

南会津・只見町の65歳以上の地域住民を対象にした研究です。1732名を分析した結果、EAT-10で評価した嚥下障害に対して、握力の低さと、動的なバランス機能の低下を反映するTimed Up and Goの測定時間が関連しました。筆頭著者は、リハビリテーション医学講座の佐藤先生です。主指導教員は、博士研究員の富永先生とともに、リサーチ・クエスチョンの明確化と解析論文化のサポートでコミットしました。

Aita T, Sando E, Katoh S, Hamaguchi S, Fujita H, Kurita N
日本における発疹熱(murine typhus)の血清有病率とその予測因子:大規模な血清疫学研究
Emerging Infectious Diseases 2023; 29: 1438-1442. doi:10.3201/eid2907.230037

「発疹熱」の日本での報告は稀ですが、2020年8月から11月にかけて、房総半島南部の2,382人の住民を対象に、この疾患の疫学を明らかにするための調査を行いました。原因菌であるRickettsia typhiの血清有病率と、同時に「ツツガムシ病」として知られる病気の病原菌であるOrientia tsutsugamushiの血清有病率も調査しました。驚くべきことに、Rickettsia typhiの血清有病率はOrientia tsutsugamushiの1.4倍も高いことがわかりました。これにより、「発疹熱」が現代において、発生はしていても注目されていない病気であることが示唆されました。この研究は、総合内科・臨床感染症学講座の山藤教授がリードしたプロジェクトで、大学院生の會田先生が筆頭著者として参画しました。主指導教員は、主要評価項目の解析やリスク因子の解析と結果の見せ方、論文の書き方で力を注ぎました。[※本研究の成果が、福島民報 日刊に掲載されました。「発疹熱」見逃されている恐れ 福医大研究チーム発表 適正診断へ実態解明急ぐ. 福島民報. 2023年8月5日 日刊27ページ. 福島民友 日刊に掲載されました。発疹熱見逃しか 高い抗体保有率 積極的な検査を 福島医大研究成果. 福島民友. 2023年8月4日 日刊23ページ.]

Tominaga R, Kurita N, Kokubun Y, Nikaido T, Sekiguchi M, Otani K, Iwabuchi M, Shirado O, Fukuhara S, Konno S
SRS-Schwab ASD分類の3つの矢状面修飾因子(sagittal modifier)でみた脊椎・骨盤アライメントと腰痛特異的QOLの用量反応関係
European Spine Journal 2021; 30: 3019-3027. doi:10.1007/s00586-021-06965-3

「脊柱の変形がどの程度あると、腰痛に伴う生活の質がどれぐらいインパクトを受けるのか?」これが、成人脊柱変形の診療で重要なクリニカル・クエスチョンとなっています。国際側弯症学会では、脊椎のX線撮影から得られる脊椎・骨盤アラインメントの計測値を、変形の程度の指標としています。
本研究では、矢状面で計測される「骨盤形態角(Pelvic Incidence)と腰椎前弯角(Lumbar Lordosis)の差分(PI-LL)」が10°を超えるほど、腰痛に伴う生活の質が低くなる可能性を示しました。脊柱変形に伴って骨盤で体の重心を保とうとする代償メカニズム(cone of economy)と代償の限界を説明できる知見と考えられます。博士研究員の富永亮司先生が着想し、主指導教員はリサーチ・クエスチョンの明確化・統計解析・論文化でコミットしました。福島県の南会津・只見町の成人を対象に行われた研究で、本学の整形外科学講座、京都大学医療疫学分野との共同成果です。