サルコペニアのスクリーニングで用いられるSARC-F質問票の診断精度を、運動器疾患およそ960人で検証しました。さらに、"EBM"(EldelyとBMI)の追加による診断精度の改善を調べました。感度・特異度は、SARC-F単独では不良でしたが、SARC-F+EBMでは約80%・70%でした。SARC-F単独に比べて、SARC-F+EBMの感度やAUCが優れました。この簡便な"SARC-F+EBM"がスクリーニングに応用できる可能性を示しました。科学研究費補助金の助成を受けて実施した研究です。[free-fulltext (全文読めます)][※研究成果が、福島民報 日刊に掲載されました。加齢や疾患で筋肉量減少 サルコペニアの新診断方法考案. 福島民報. 2019年8月1日 日刊29ページ. また、福島民友に掲載されました。筋力低下に新診断選別法 福島医大 栗田特任教授チーム. 福島民友. 2019年8月11日 日刊4ページ.]
第1著者/(co-)first author
変形性関節症およそ1400症例を対象にした研究です。クレアチンキナーゼ(CK)の値が低いほど、サルコペニア(筋肉量が減り、筋力が落ちることによる症候群)であることが分かりました。変形性関節症に伴いやすい炎症や痛みは、サルコペニアと関連がありませんでした。アウトカムのサルコペニア基準がアジア版でも、ヨーロッパ版でも、結果は同じでした。今後は、CKなどを含めた臨床情報の組み合わせで診断が可能であるか検討する予定です。
須賀川市の後期高齢者288名(平均年齢80歳)を対象に、一日食塩摂取量(田中式で推定)、体重と血圧上昇との関連を横断的に調査しました。一日食塩摂取量の平均は9.1g/日でした。食塩摂取量と体重の1標準偏差あたりの増加が、収縮期血圧4.1mmHg および5.3mmHg の上昇と関連しました。体重の1標準偏差あたりの増加が、拡張期血圧2.7mmHg の上昇と関連しました。生活習慣の変容により後期高齢者の血圧を管理できる可能性を示しました。大学院研究生の飯田 英和先生が着想し、主指導教員が解析論文化を指導しました。臨床研究イノベーションセンターのOB・現スタッフの努力の賜物で行うことができた研究です。須賀川市にも還元しうる知見を得ました。皆様のお蔭でありますため、筆頭著者・主指導教員ともにこの機会を頂いたことに大変感謝しております。[※研究成果が、7月11日の 福島民報 日刊に掲載されました。後期高齢者の高血圧 食塩摂取量と体重 関連. 福島民報. 2019年7月11日 日刊25ページ.]
この研究では、大震災と原発災害が福島市における出生率にどのような影響を与えたのかを調べました。自由に閲覧できる行政の月別データを、臨床疫学的な方法で分析しました。震災後2年の間は、出生率が10%低下したと推定しました。しかし、その後の2017年までの出生率の傾向は、震災前と同じくらいに回復していました(分割時系列解析の結果から分かるように、震災が起こる前と後では、出生率の傾向に大きな変化がなかったのです)。この回復は、福島市の復興の努力が反映されたものであると考えられました。このようなデータサイエンス研究こそが、私たちにとって、災害から立ち上がり、再び希望を持って未来を歩んでいく力を与えてくれると思いませんか?全文読めます[free-fulltext]。また、日経メディカル・福島民報・福島民友で紹介されました。[原発事故から2年間の福島市の出生率は低下 3年目以後は震災前からの長期的な少子化トレンドに]
福島市の出生率低下 震災前と同じ水準に. 福島民友新聞. 2019年3月7日 2ページ
バイタリティー(活力)を測るSF-12質問票の単一項目「過去4週間のうちどのぐらい活力(エネルギー)にあふれていましたか」への回答と、臨床アウトカム(健康に関しての結果)の関係性を、血液透析患者の大規模なコホート(J-DOPPS)で分析しました。頻脈・ベンゾジアゼピン等の使用が低い活力と関係し、高いBMI・アルブミン・透析量が高い活力と関係しました。バイタリティーへの回答が良好なほど、バイタルサイン等と独立に、生命予後が良好で、反復のある血管イベント入院・死亡が少ないことがわかりました。単一項目のバイタリティー(活力)を、”QOLのバイタルサイン”として、診療現場でバイタルサインのように測定する意義を示しました。
血液透析患者の透析間体重増加の上限値が診療ガイドラインに記されています。しかし、上限値の根拠とする既存の研究結果には栄養状態や治療条件が絡み合うため、不一致がありました。本邦で週3回の血液透析を受ける8,661名の患者が対象の本研究では、血清アルブミンが3.8 g/dL以上(国際腎臓栄養代謝学会のカットオフを採用)の場合のみ、過剰な透析間体重増加(7%以上)が予後不良でした。他方、血清アルブミンが3.8 g/dL未満の場合、透析間体重増加が少ない場合(2%未満)と中等度の場合(4%-5%)が、それぞれ予後不良・予後良好である可能性を示しました。この研究は、アメリカ腎臓財団が管理栄養士(Registered Dietitian)に提供する継続的専門教育(CPE)の題材に採用されました。また、韓国腎臓学会の「至適血液透析の診療ガイドライン2021」で引用された日本の臨床データからの6編の論文のうちの1編として貢献しました[論文]。研究が海をわたって、現場の腎臓栄養管理を考えるための贈り物になったかもしれない、と思います。
血液透析患者の血清カルシウム(Ca),リン(P),副甲状腺ホルモン(PTH)を測定する頻度の目安は、国内外の診療ガイドラインに記されています。しかし、測定頻度の根拠がありませんでした。二次性副甲状腺機能亢進症の血液透析患者3276名が対象の本コホート研究では、日本透析医学会のガイドラインの目標域を超えている場合、血清Caの毎週測定が毎月測定よりも目標域に達しやすく、PTHの毎月測定が3ヵ月毎の測定よりもガイドラインの目標域に達しやすかったことが明らかとなりました。ガイドラインの目標域内にある場合、より頻回な測定によって血清Ca, P, PTHの目標域が維持される可能性は、明らかになりませんでした。教員がリサーチ・クエスチョンの立案・解析・論文化にコミットしました。
大学院教育に関する研究論文です。初期臨床研修の修了後に市中病院で勤務する若手医師を対象に、大学院進学を希望する程度とその関係因子や、志望しない理由などについての実態を調べた研究です。志望しない理由で多かったのは、①活動に興味がない、②自分の給与・労働条件に満足している、③専門医取得に必要な臨床経験がまだ十分でない、④魅力的でないポジションを押し付けられるのは嫌だ、などであり、⑤将来のキャリアパスについて不安があるという回答もありました。