2025年

Tominaga R*, Ikenoue T*, Ishii R, Kurita N#, Taguri M#. (*co-first authors; #co-last authors)
Bone 2025; 117624. doi:10.1016/j.bone.2025.117624

本報告は、以前我々が発表した研究論文――骨粗鬆症患者において、骨粗鬆症治療薬であるロモソズマブとテリパラチドが骨粗しょう症性骨折(上腕骨近位部骨折、前腕遠位部骨折、大腿骨近位部骨折、胸椎および腰椎の椎体骨折)の発生に及ぼす影響を比較した研究――に対する読者からの投書を受けて実施した、追加解析の結果をまとめたものです。再検討の結果、以下の知見が得られました。

  1. 処方薬の中断や切り替えに伴って生じる可能性のあるバイアスを取り除くための統計処理を行っても、テリパラチドと比較してロモソズマブで骨折発生が少ない傾向は変わりませんでした。

  2. 処方薬開始後90日以内に発生した胸椎・腰椎骨折を評価項目とした解析でも、ロモソズマブ群で骨折発生が少ない傾向が認められました。

  3. さらに、処方薬開始後90日以降の胸椎・腰椎骨折を評価した場合でも同様の傾向が確認され、この傾向は主要評価項目であった「骨粗しょう症性骨折」においても一貫していました。

滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センターの池之上辰義先生と東京医科大学 医療データサイエンス分野の田栗正隆先生らとの共同成果(チームプロダクト)です。レスポンスレターの主筆は富永亮司先生が務め、主指導教員は研究計画の立案・解析・論文化支援でフルコミットしました。

Kurita N, Maeshibu T, Aita T, Wakita T, Kikuchi H.
BioPsychoSocial Medicine 2025; 19: 15. doi:10.1186/s13030-025-00337-9

肥満は個人の生活習慣の問題にとどまらず、社会や行政が取り組む健康政策(パブリックヘルス)においても重要な課題です。私たちの研究では、「やり抜く力(グリット)」と肥満の関係を、日本の成人を対象に調べました。
その結果、グリットが高い人ほど「肥満ではない」傾向があることが分かりました。さらに詳しく分析すると、この関係は「コントロール不能な食べすぎ(制御不能な摂食)」や「感情的な食べすぎ(感情的摂食)」が少ないことを通じて説明できることが明らかになりました。
つまり、グリットと肥満の関連は、グリットが高い人ほど食行動をより適切に保ちやすいことと結びついている、という間接的なメカニズムによる可能性が示唆されました。
この研究は、肥満対策を考える上で「個人の性格そのものに注目する」のではなく、「食行動という具体的な行動に働きかけること」が重要であることを示しています。
科学研究費補助金の助成(基盤研究(B) 課題番号JP22H03317; 研究代表者:栗田)を受けた研究の成果(チームプロダクト)です。

Kanakubo Y, Inanaga R, Toida T, Aita T, Ukai M, Kawaji A, Toishi T, Matsunami M, Munakata Y, Suzuki T, Okada T, Kurita N#. (#last author)
Journal of Nephrology 2025; doi:10.1007/s40620-025-02387-2 (in press)

「人を中心に据えた医療」や「医師への信頼」が透析患者の服薬アドヒアランスに影響することが経験的に知られていますが、それらがどのように服薬アドヒアランスにつながるのかが明らかではありませんでした。日本の6施設に通院する血液透析患者を分析した結果、「人を中心に据えた医療の質」が高いほど服薬の困難度は少なく、その関連は「医師への信頼」の高さを通じて部分的に媒介されていました。特に質が最も高い群では、服薬アドヒアランスへの影響の約3分の1が「医師への信頼」を介したものでした。本研究は、透析患者の服薬アドヒアランス向上のためには、信頼関係の構築ケアの継続性・ケアの連携を含む多面的な「人を中心に据えた医療アプローチ」が重要であることを示しています。科学研究費補助金の助成(基盤研究(B) 課題番号JP19KT0021 および 挑戦的研究(萌芽) 課題番号JP22K19690; 研究代表者:栗田; 基盤研究(C) 課題番号23K16271; 研究代表者:戸井田)を受けた研究の成果(チームプロダクト)です。[※論文はこちらよりご覧頂けます。]

Kawabata S, Kurita N, Nikaido T, Tominaga R, Endo Y, Fujita N, Konno Si, Ohtori S, and Clinical Research Committee of the Japanese Society of Lumbar Spine Disorders.
PLOS ONE 2025; 20: e0328684. doi:10.1371/journal.pone.0328684

2023年に、日本腰痛学会が全国の20〜90歳の成人を対象に、訪問調査による大規模な腰痛の疫学を実施しました(調査報告書はこちら)。本研究ではその調査データをもとに、「生活習慣と腰痛との関係」について分析しました。その結果、現在腰痛のある人は、体重(BMI)が高いこと、喫煙していること、血中脂質の異常(脂質異常症)といった生活習慣と関係があることが分かりました。さらに、腰痛が重い人では、喫煙、運動不足、脂質異常症の傾向が強いことも明らかになりました。また、喫煙は慢性的な腰痛とも関係している可能性があることが示されました。今後は、これらの生活習慣が腰痛の「原因」になっているのか、あるいは「悪化させる要因」なのかを明らかにするため、時間を追って観察する縦断研究が求められます。この論文は、本学の整形外科学講座の二階堂先生・遠藤先生、博士研究員の富永先生とともに参画したもので、藤田医科大学の整形外科学講座の先生方が主導しました。

Ishikawa Y, Oguro N, Ichikawa T, Kishida D, Sakurai N, Hidekawa C, Shidahara K, Hayashi K, Miyawaki Y, Shimojima Y, Yoshimi R, Sada K, Yajima N, Kurita N#. (#last author)
Modern Rheumatology 2025; doi:10.1093/mr/roaf047 (in press)

日本リウマチ学会のModern Rheumatology Young Researcher Excellent Paper Award (MRY Excellent Paper Award)受賞論文に選出されました。

Joki N, Toida T, Niihata K, Inanaga R, Nakata K, Abe M, Hanafusa N, Kurita N#. (#last author)
Hypertension Research 2025; 48: 2045–2057. doi:10.1038/s41440-025-02231-x

透析患者における予後評価の指標として、透析前の収縮期血圧(SBP)や脈拍数は広く用いられていますが、それぞれを個別に評価するだけでなく、両者を組み合わせて評価することが予後にどのような影響を与えるかは、これまで十分に検討されていませんでした。本研究では、日本透析医学会が実施する全国透析データベース(Japanese Renal Data Registry)を用いて、維持血液透析を受けている275,215名の患者を対象に、透析前のSBPと脈拍数の組み合わせが1年以内の死亡リスク、心疾患による死亡リスクの予測において、どの程度有用であるかを検討しました。

その結果、SBPが低い場合には、脈拍数に関係なく全死亡リスクが高まる傾向が認められました。また、SBPと脈拍数を組み合わせて評価するモデルは、それぞれを単独で評価するモデルよりも、全死亡および心血管死の予測において統計学的に優れていることが明らかになりました。特に、低いSBPまたは高い脈拍数の組み合わせにおいて、相加的・相乗的なリスクの増加が観察されました。

これらの結果は、透析前に日常的に測定される血圧と脈拍というシンプルな指標を組み合わせて評価することで、単独評価では見逃される可能性のある高リスク患者の層別化が可能になることを示唆しています。臨床現場における予後予測や治療方針の決定において、より精緻なリスク評価ツールとして活用するためのさらなる研究が求められます。

東邦大学の常喜教授と共に研究課題を発案し、博士研究員の戸井田先生・新畑先生と主指導教員が解析論文化でコミットしました。[※論文はこちらよりご覧頂けます。]

Tominaga R*, Ikenoue T*, Ishii R, Niihata K, Aita T, Okuda T, Shimizu S, Kurita N#, Taguri M#. (*co-first authors; #co-last authors)
日本人の骨粗鬆症患者へのロモソズマブとテリパラチド使用による骨粗鬆症性骨折に対する有効性の比較:新規ユーザーデザイン
Bone 2025; 198: 117523. doi:10.1016/j.bone.2025.117523

この研究は、骨粗鬆症治療薬であるロモソズマブとテリパラチドが主要な骨粗鬆症性骨折(上腕骨近位部骨折、前腕遠位部骨折、大腿骨近位部骨折、および胸椎と腰椎の椎体骨折)の発生に及ぼす影響について、日本の骨粗鬆症患者を対象に比較したものです。日本の医療レセプトデータ(医療機関が診療報酬を請求する際に作成する記録)を利用し、骨粗鬆症の診断を受けたかもしくは脆弱性骨折を経験し、ロモソズマブまたはテリパラチドを新規に処方された患者約3万5000人を対象に分析しました。1年以内の主要な骨粗鬆症性骨折について、ロモソズマブのハザード比は0.8倍(95%信頼区間: 0.71-0.89)であり、2年以内の主要な骨粗鬆症性骨折について、ロモソズマブのハザード比は0.81倍(95%信頼区間: 0.72-0.90)でした。以上から、ロモソズマブはテリパラチドと比較して1年以内の主要な骨粗鬆症性骨折リスクを有意に減少させる可能性が示唆されました。

滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センターの池之上辰義先生と東京医科大学 医療データサイエンス分野の田栗正隆先生らとの共同成果(チームプロダクト)です。主筆は、富永亮司先生が務められました。主指導教員は、研究計画の立案・解析・論文化支援でフルコミットしました。[7月8日までは論文がフリーで閲覧できますこちらをクリック]

Shibagaki Y, Sofue T, Kawarazaki H, Toida T, Suzuki T, Nishiwaki H, Asano K, Terawaki H, Ito T, Oka H, Nagai K, Murakami M, Nagai K, Komukai D, Adachi T, Furukata S, Tsutsui T, Fujisaki K, Sugitani S, Shimizu H, Nishino T, Asada H, Shimizu H, Tsukamoto T, Nakaya I, Yamada Y, Inanaga R, Yamada S, Nakanishi S, Maeda A, Yamamoto M, Hirashio S, Okamoto T, Nakamura T, Miyoshi K, Kado H, Toda S, Shibata S, Nishi K, Yamamoto M, Naganuma T, Zamami R, Furusho M, Miyasato H, Tamura Y, Raita Y, Fukuhara C, Uehara K, Inoue K, Taki Y, Nakano N, Kurita N#, and the PREPARES Study Group. (#last author)
Kidney International Reports 2025; 10: 2778-2788. doi:10.1016/j.ekir.2025.05.011

腎代替療法の選択は、患者の生活に大きな影響を与える重要な場面であり、患者と医療者が協力して意思決定を行う「協働意思決定(Shared Decision-Making:SDM)」が推奨されています。しかし、日本におけるCKD(慢性腎臓病)患者のSDMに対する理解や実際の経験、そしてSDMが行われたという認識に影響を与える要因については、これまで十分に明らかにされていませんでした。

そこで本研究では、全国49施設の成人CKD患者475名を対象に、腎代替療法を選択した際のSDMに関する調査を行いました。その結果、全体の8割以上が腎代替療法選択時にSDMが行われたと感じていた一方で、調査前からSDMという概念をよく知っていた人はわずか4.7%でした。患者が特に重視したい話題は、「日常生活への影響」「経済的負担」「家族との関係」などで、多くの人が「腎代替療法が必要になる直前」に「複数回にわたる話し合い」の実施を望んでいました。また、腎臓専門医だけでなく、医療ソーシャルワーカーやかかりつけ医(非腎臓専門医)など、さまざまな医療職の関与も重視されていました。SDMの認識と有意に関連していたのは、腎代替療法選択のための外来(看護師の参加と十分な時間が確保された外来)への複数回の受診でした。本研究の結果より、日本の腎代替療法選択において患者は自身の生活に直結する情報を求めており、繰り返しSDMの機会を設ける体制の整備が、今後のCKD診療においてますます重要になると考えられます。

科学研究費補助金の助成(基盤研究(C) 課題番号JP21K10314; 研究代表者:柴垣; 基盤研究(B) 課題番号JP19KT0021 および 挑戦的研究(萌芽) 課題番号JP22K19690; 研究代表者:栗田)を受けたPREPARES研究(PREference for PAtient REnal replacement therapy and Sharing Study)の成果(チームプロダクト)です。主筆は、聖マリアンナ医科大学の柴垣教授が務められました。主指導教員は、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化支援でフルコミットし、日本全国の50の施設でご活躍の腎・透析専門医の先生方とチームで推進しました。[※研究成果が、福島民友 日刊に掲載されました。患者との「対話」ひと工夫を 腎臓病治療の共同意思決定、福島医大グループ調査. 福島民友. 2025年6月18日 日刊3ページ.]