業績

患者さんと医師の間に築かれる「信頼」は、長期的な診療を支える重要な要素です。私たちは、全身性エリテマトーデス(SLE)患者422名とリウマチ医38名を対象に、医師のバーンアウトと患者からみた主治医への信頼との関連を調べました。
その結果、バーンアウトの基準を満たすリウマチ医を主治医とする患者では、主治医への信頼が有意に低いことが分かりました。また、バーンアウトの程度が強いほど、信頼度が低くなることが示されました。
本研究は、患者・医師関係を患者側の要因だけでなく、医師側の「well-being」という視点から捉えた研究です。より良い医療を実現するためには、患者さんへのアプローチだけでなく、医師がより良い状態で診療できる環境について考えることも重要なのかもしれません。
本研究は、科学研究費補助金(JP19KT0021)の助成を受けた♣️TRUMP2-SLE♠️(Trust Measurement for Physicians and Patients with Systemic Lupus Erythematosus)研究の成果です。順天堂大学の津島先生が筆頭著者を務め、昭和医科大学の矢嶋教授の指導のもと実施されました。栗田は研究構想、統計解析、論文の執筆・改訂に携わりました。
透析患者において健康関連 QOL(HRQOL)は重要な患者アウトカムであり,疲労や生活への参加が重視されています.本稿では,透析患者の QOL評価法として,包括的尺度である SF-36®v2 と腎疾患特異的尺度であるKDQOL-SFTM を概説し,その特徴と活用上の留意点を整理しました.さらに,J-DOPPS 研究等の知見をもとに,栄養状態や身体機能が QOL と関連することを紹介しました.また,健康関連ホープ(HR-Hope)が食事・水分制限に伴う苦痛の軽減や身体機能の維持と関連する可能性について概説しました.QOL 評価は,患者が望む生活への参加を支援する患者中心の透析医療の実践に重要です.
膝関節置換術(KA)は、痛みや身体機能を改善する有効な治療法ですが、術後の回復経過には患者ごとに大きな違いがあります。しかし、術後1年間の機能回復にどのような経過パターン(トラジェクトリ)があるのか、また、その違いを術前の筋機能で予測できるかは十分に分かっていませんでした。
本研究では、手術側の骨格筋指数(SMI)、大腿四頭筋力、位相角(Phase angle: PhA)を術前に測定しました。PhAは、生体電気インピーダンス法(BIA)から得られる指標で、近年では「筋質」や細胞の健康状態を反映する指標として注目されています。また、患者立脚型アウトカムであるKnee Society Score(KSS)の機能活動スコアを用いて、術前から術後12か月までのスコアの変化を評価しました。
その結果、患者は「低機能だが大きく改善する群」など、4つの回復パターンに分類されました。特に、術前のPhAが高い患者ほど、術後に良好な機能回復を示すグループに属する可能性が高いことが分かりました。一方で、骨格筋量(SMI)との関連は限定的でした。
これらの結果から、筋量だけでなく、筋質を反映するPhAを術前に評価することで、術後の回復が不良となるリスクの高い患者を予測できる可能性が示唆されました。

2023年、「日本腰痛学会」では、20–90歳の全国一般住民を対象とした大規模訪問調査「腰痛疫学調査」を実施しました(調査報告書はこちら)。本研究では、この全国調査データを用いて、日本語版オズウェストリー障害指数(ODI version 2.1a:腰痛によって日常生活がどの程度障害されているかを評価する代表的指標)の計量心理学的妥当性を検証するとともに、国民標準値(normative values)の推定を行いました。
解析の結果、ODI version 2.1a は、日本人一般住民において単一の総合スコアとして適切に利用できることが確認されました。さらに、腰痛有訴者におけるODIの国民標準値は平均20.23(標準偏差16.42)であり、腰痛の持続期間によって国民標準値が異なることが示されました(急性腰痛:12.54、亜急性腰痛:13.54、慢性腰痛:22.74)。
これらの知見は、臨床現場における患者の障害度の評価指標として、ODI version 2.1aをより適切に活用するための基盤になることが期待されます。また、日本人一般住民における基準値を提示したことで、今後の腰痛研究や疫学研究における比較指標としての活用も期待されます。
本研究では、福島県立医科大学整形外科学講座の遠藤先生が筆頭著者を担いました。本研究は、二階堂先生、紺野名誉教授らが推進してきた全国腰痛疫学研究プロジェクトの主要テーマの一つとして実施されたものです。指導教員は、調査票の設計、リサーチクエスチョンの定式化、統計解析、論文作成に至るまで、研究全体にわたり中心的に関与しました。
また、ODI version 2.1aの計量心理学的評価については関西大学の脇田貴文教授、全国住民調査データの適正利用については福島県立医科大学医療研究推進センターの小早川雅男教授をはじめ、多くの研究者の支援を受けながら実現した成果でもあります。

本総説は、腎臓医かつ臨床疫学者の視点から、日常診療で生じるクリニカルクエスチョンを、どのように質の高い臨床研究へと発展させるかを解説した論文です。医療の質を「構造・プロセス・アウトカム」で捉える基本モデルをベースにして、バイオマーカー評価のような従来型の研究から、患者報告アウトカム(PROs)、患者の体験や感情、さらには医療者と患者の関係性といった主観的要素までを、臨床疫学の枠組みの中で体系的に整理しています。臨床統計学的手法そのものだけでなく、「何を問い、なぜそれを問うのか」というリサーチ・クエスチョンをデザインする力の重要性を強調している点が特徴であり、患者を中心に据えた腎臓診療を実現するための臨床研究の考え方を、次世代の医療者・研究者に向けて示しています。

