業績

栗田宜明.
臨牀透析2026年8月 2026; 8: 831–836.

透析患者において健康関連 QOL(HRQOL)は重要な患者アウトカムであり,疲労や生活への参加が重視されています.本稿では,透析患者の QOL評価法として,包括的尺度である SF-36®v2 と腎疾患特異的尺度であるKDQOL-SFTM を概説し,その特徴と活用上の留意点を整理しました.さらに,J-DOPPS 研究等の知見をもとに,栄養状態や身体機能が QOL と関連することを紹介しました.また,健康関連ホープ(HR-Hope)が食事・水分制限に伴う苦痛の軽減や身体機能の維持と関連する可能性について概説しました.QOL 評価は,患者が望む生活への参加を支援する患者中心の透析医療の実践に重要です.

 

Suzuki T, Toida T, Munakata Y, Kanakubo Y, Ukai M, Inanaga R, Toishi T, Aita T, Kawaji A, Matsunami M, Okada T, Kurita N.
Kidney360 2026; 7: 1825-1834. doi:10.34067/KID.0000001243

血液透析を受けている患者さんにとって、将来の病状の変化があった場合の治療方針について、あらかじめ自分の意向を考え、家族や医療者と話し合っておくことは重要です。こうした将来の医療やケアについての話し合いは「アドバンスケアプランニング(Advance Care Planning:ACP)」と呼ばれています。

一方で、ACPに参加するためには、病気や治療について情報を理解するだけでなく、その情報をもとに自分で考え、必要な情報を探したり、医療者と話し合ったりする力も必要です。
私たちは、このようなヘルスリテラシー(健康に関する情報を入手・理解し、判断や行動に活用する力)が、透析患者さんのACPへの参加とどのように関係しているのかを調べました。

日本の6施設で血液透析を受けている成人患者を対象に調査したところ、約半数の患者さんが、家族や医療者と将来の治療やケアについて何らかの話し合いをしていました。一方で、医療者を交えた正式なACPの機会を経験していた患者さんは5%にとどまりました。

興味深いことに、自分で情報を吟味し、考え、判断する「批判的ヘルスリテラシー」が高い患者さんほど、日常的なACPに参加していることが分かりました。一方、ヘルスリテラシー全体が高い患者さんでは、正式なACPへの参加も多いことが示されました。また、将来どのような治療を受けたいのか「まだ決められていない」と答えた患者さんでは、ヘルスリテラシーが低い傾向がみられました。

さらに、ACPについて話し合っていない患者さんに、その理由を尋ねたところ、最も多かったのは「話し合う機会がないから」という回答でした。つまり、ACPが進まない理由は、患者さん自身が関心を持っていないことだけではなく、そもそも患者さんが将来について考え、医療者と話し合うための「きっかけ」が十分に提供されていない可能性があります。

これらの結果から、透析医療における患者中心の意思決定を進めるためには、患者さんのヘルスリテラシーを高める取り組むことと、医療者側からACPについて話し合う機会を体系的に提供することが重要であると考えられます。患者さんが「自分はどうしたいのか」を考え、それを家族や医療者と共有できる環境をつくることが、より患者中心の透析医療につながる可能性があります。

Kamitani T, Wada O, Mizuno K, Kurita N.
Clinical Nutrition ESPEN 2026; 74: 103334. doi:10.1016/j.clnesp.2026.103334

膝関節置換術(KA)は、痛みや身体機能を改善する有効な治療法ですが、術後の回復経過には患者ごとに大きな違いがあります。しかし、術後1年間の機能回復にどのような経過パターン(トラジェクトリ)があるのか、また、その違いを術前の筋機能で予測できるかは十分に分かっていませんでした。

本研究では、手術側の骨格筋指数(SMI)、大腿四頭筋力、位相角(Phase angle: PhA)を術前に測定しました。PhAは、生体電気インピーダンス法(BIA)から得られる指標で、近年では「筋質」や細胞の健康状態を反映する指標として注目されています。また、患者立脚型アウトカムであるKnee Society Score(KSS)の機能活動スコアを用いて、術前から術後12か月までのスコアの変化を評価しました。

その結果、患者は「低機能だが大きく改善する群」など、4つの回復パターンに分類されました。特に、術前のPhAが高い患者ほど、術後に良好な機能回復を示すグループに属する可能性が高いことが分かりました。一方で、骨格筋量(SMI)との関連は限定的でした。

これらの結果から、筋量だけでなく、筋質を反映するPhAを術前に評価することで、術後の回復が不良となるリスクの高い患者を予測できる可能性が示唆されました。

Hasegawa A, Omae K, Harigane Y, Yaginuma K, Imai H, Meguro S, Matsuoka K, Hoshi S, Hata J, Sato Y, Akaihata H, Ogawa S, Kurita N, Kojima Y.
Clinical Genitourinary Cancer 2026; 24: 102565. doi:10.1016/j.clgc.2026.102565
Niihata K*, Kurita N*#, Inanaga R, Toida T, Abe M, Masaki T, Yamamoto S. (*co-first authors; #corresponding author)
Clinical and Experimental Nephrology 2026; 30: 767–779. doi:10.1007/s10157-026-02839-4

透析療法を受ける方、特に高齢の方では、「長く生きること」だけでなく、「自分で生活できること」や「疲れにくく過ごせること」を大切にされる場合があります。
このような価値観が重視されるなかでも、透析期間の長期化がフレイル(虚弱)や寝たきりの進行とどのように関連するのか、またベースライン時の身体機能状態が長期予後にどのような影響を与えるのかについては、十分に明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、日本透析医学会レジストリ(JRDR)を用いて、約22万人の維持血液透析を受ける方を8年間追跡し、身体機能の変化を検討しました。

その結果、8年後には59.9%がお亡くなりになり、8.8%がフレイル、2.4%が寝たきりとなっていました。
また、透析歴が長い方ほど、その後のフレイル、寝たきり、死亡のリスクが段階的に高くなる「用量依存的な関連」が認められました。

さらに、ベースラインで寝たきりだった方は、非フレイルの方と比べて死亡リスクが16倍以上高くなっていました。

死因にも特徴がみられ、非フレイルの方では脳血管障害や心筋梗塞による死亡が比較的多かった一方、フレイルや寝たきりの方では、感染症や心不全による死亡が多くみられました。

一方で、ベースラインで非フレイルだった方でも、8年後に「非フレイルのまま生存」していた割合は約40%に留まっていました。

これらの結果は、透析導入後の長期経過を見据えながら、早い段階からご本人の価値観を共有し、「どのように生活したいか」を含めた人生設計や個別化ケアについて対話していく必要性を示唆しています。

Tsugihashi Y, Yasunaka M, Hayashi S, Iida H, Shirahige Y, Kurita N, and the ZEVIOUS group.
在宅医療患者における実際の余命と健康関連ホープとの関係性:ZEVIOUSコホート研究
Geriatrics & Gerontology International 2025; 25: 124-126. doi:10.1111/ggi.15029


東京・奈良・長崎で在宅医療を受ける患者さんを対象に、人生の最期の期間を追跡した後に、調査開始時点のQOL、およびホープとの関係性を分析しました。QOLはQOL-HC(高得点ほどQOLが高い)で、ホープは健康関連ホープ尺度のドメインスコア(「健康」、「役割とつながり」、「生きがい」:高得点ほど希望が高い)で評価しました。その結果、最後の期間が短い患者ほど、ホープのすべてのサブドメインが低下していました。この結果は、担当医が予測した期待余命とホープの先行研究で、「役割とつながり」というサブドメインが維持されている結果とは相反するものでした。先行研究の結果は、在宅医が希望や感謝を伝える患者さんを診たときに余命がわずかとみなす傾向があることで説明できるかもしれません。もしかすると本研究結果のように患者のホープが失われつつある状況を過小評価している可能性があります。したがって、患者の"真のホープ"の程度を理解するためには、在宅医が継続的な対話を重ねて、たとえ本音をはっきり言わなくても推測する努力が求められているのかもしれません。
長崎在宅Dr.ネット・天理よろづ相談所白川分院と奈良県内でご活躍の先生方・医療法人社団鉄祐会とチームで行う、ZEVIOUS研究(Zaitaku Evaluative Initiatives and Outcome Study)の成果(チームプロダクト)です。主筆は、次橋幸男先生が務められました。主指導教員は、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化支援でフルコミットしました。

Iida H, Hayashi S, Yasunaka M, Tsugihashi Y, Hirose M, Shirahige Y, Kurita N, and the ZEVIOUS group.
BMJ Open 2025; 15: e089639. doi:10.1136/bmjopen-2024-089639


東京、奈良、長崎の3地域で在宅医療を受ける患者を対象に、患者経験(ひらたく言えば、患者さん本位の医療を受けた経験を評価するスコア)QOL(生活の質)、および健康関連希望(ホープ)との関係性を横断的に分析しました。患者経験はプライマリ・ケアの質を反映するJPCAT-SFで評価しました。QOLはQOL-HCスケール(高得点ほど生活の質が高い)で評価し、ホープは健康関連ホープ尺度(HR-Hope)の総スコアで評価しました。その結果、患者経験が良好であるほど、QOLおよびホープのスコアが有意に高いことが明らかとなりました。患者経験のドメイン別に調べても同様の関係性があることも確認できました。
医療法人社団鉄祐会・長崎在宅Dr.ネット・天理よろづ相談所白川分院と奈良県内でご活躍の先生方とチームで行う、ZEVIOUS研究(Zaitaku EValuative Initiatives and OUtcome Study)の成果(チームプロダクト)です。主指導教員が、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化でフルコミットしました。

栗田宜明.
いま身につけたい CKD患者を診るチカラ 腎機能を診るチカラ レジデントノート増刊 羊土社 2024; 26巻14号: 212-220.

慢性腎臓病の腎代替療法(透析や腎移植など)の導入前や導入後を中心に、抑うつや絶望感(ホープレス)を含む心理的葛藤やアドバンスケアプラニングについて解説しています。

Wada O, Kamitani T, Mizuno K, Kurita N.
人工膝関節全置換術において位相角が1年後の大腿四頭筋筋力の変化に及ぼす影響:SPSS-OK研究
The Journal of Arthroplasty 2025; 40: 672-677.e1. doi: 10.1016/j.arth.2024.09.018

SPSS-OKプロジェクトの第10報目となる研究が、整形外科手術分野のトップジャーナルのひとつであり、股関節および膝関節の関節形成術に焦点を当てた学術誌であるThe Journal of Arthroplastyから出版されました。膝関節置換術およそ850名を分析した研究です。バイオインピーダンス測定で得られる位相角(PhA)と手術後1年間にわたる大腿四頭筋の筋力の推移との関係性を調べました。その結果、PhAが高いほど術後早期の筋力の低下が見られる傾向にありましたが、術後1年近くになると筋力の改善が高い傾向にあることがわかりました。主指導教員が研究デザインの立案・解析・論文化を支援しました。あんしん病院の理学療法士で院長補佐の和田先生、京都大学の 紙谷司先生との共同研究でもあり、このご縁をいただいたことと、プロジェクトの支援をして頂いている皆様に感謝しております。科学研究費補助金の助成を受けて実施した研究です。[11月28日までは論文がフリーで閲覧できますこちらをクリック]