全国17施設が参加する日本初の小児持続的腎代替療法(jpCRRT)レジストリを、筆頭著者の芳賀先生を中心に構築し、小児集中治療領域における主要腎有害事象(Major Adverse Kidney Events: MAKE)の実態と関連因子を明らかにした研究です。
PICU退室時には50%以上の患児でMAKEを認め、腎疾患・感染症、高い循環作動薬使用量、高カリウム血症が短期予後と関連することを示しました。
本レジストリは、小児CRRTの長期予後の解明やエビデンス創出、治療戦略の最適化を推進する全国共同研究基盤として、今後の発展が期待されます。
本研究では、指導教員の栗田が研究デザイン・解析計画の立案、解析の監督、論文構成および編集を担当し、研究全体を支援しました。
本研究では、福島県および山梨県の医療機関の協力のもと、診療録を用いた包括的なデータ収集を実施し、比較対照を備えた分割時系列デザイン(controlled interrupted time-series)により、福島第一原子力発電所事故前後における停留精巣発生率の変化を検証しました。その結果、原発事故後に停留精巣発生率が増加したことを示す疫学的証拠は認められませんでした。
栗田は前任の福島県立医科大学 臨床研究教育推進部において、研究デザイン、解析計画の策定、および統計解析の監修(実解析:大前憲史先生) を担当しました。本研究は、多施設でのデータ収集を主導された福島県立医科大学泌尿器科学講座の先生方、比較地域である山梨県でのデータ収集にご尽力いただいた山梨大学泌尿器科学講座の先生方、さらに放射線医学など多分野の研究者との共同研究として実施された、環境省 放射線健康管理・健康不安対策事業(放射線の健康影響に係る研究調査事業) の成果によるものです。
長年にわたり本研究を牽引された小島祥敬先生をはじめ、共同研究者の皆様に深く敬意を表します。
日本の抗菌薬適正使用政策が、不要な抗菌薬処方の減少と関連し、重症細菌感染症による入院増加を伴わなかったことを報告しました。
本研究では、2016~2019年度の約300万人の被保険者データを用いて、分割時系列デザインにより抗菌薬適正使用政策の影響を評価しました。対象とした政策は、①2017年6月の「抗微生物薬適正使用の手引き」の公表、②2018年4月の「小児抗菌薬適正使用支援加算」の導入です。
その結果、非細菌性急性呼吸器感染症(ARI)に対する外来抗菌薬処方率は、「抗微生物薬適正使用の手引き」公表後に低下しました。また、「小児抗菌薬適正使用支援加算」導入後には、3歳未満で処方率の低下がみられ、政策対象年齢層への影響が示唆されました。
一方で、いずれの政策後も、ARI関連の重症細菌感染症による入院が全体として増加した明確な証拠は認められませんでした。
本研究は、国レベルの抗菌薬適正使用政策が実臨床に与える影響を示した研究として、今後の感染症対策や医療政策を考える上で重要な知見になると考えられます。
本研究は、大阪大学の山本舜悟先生が研究構想、解析、論文化を主導されました。栗田宜明は、研究計画立案、解析方針の検討、結果の解釈、および論文記載の改善に協力しました。
血液透析を受けている患者さんにとって、将来の病状の変化があった場合の治療方針について、あらかじめ自分の意向を考え、家族や医療者と話し合っておくことは重要です。こうした将来の医療やケアについての話し合いは「アドバンスケアプランニング(Advance Care Planning:ACP)」と呼ばれています。
一方で、ACPに参加するためには、病気や治療について情報を理解するだけでなく、その情報をもとに自分で考え、必要な情報を探したり、医療者と話し合ったりする力も必要です。
私たちは、このようなヘルスリテラシー(健康に関する情報を入手・理解し、判断や行動に活用する力)が、透析患者さんのACPへの参加とどのように関係しているのかを調べました。
日本の6施設で血液透析を受けている成人患者を対象に調査したところ、約半数の患者さんが、家族や医療者と将来の治療やケアについて何らかの話し合いをしていました。一方で、医療者を交えた正式なACPの機会を経験していた患者さんは5%にとどまりました。
興味深いことに、自分で情報を吟味し、考え、判断する「批判的ヘルスリテラシー」が高い患者さんほど、日常的なACPに参加していることが分かりました。一方、ヘルスリテラシー全体が高い患者さんでは、正式なACPへの参加も多いことが示されました。また、将来どのような治療を受けたいのか「まだ決められていない」と答えた患者さんでは、ヘルスリテラシーが低い傾向がみられました。
さらに、ACPについて話し合っていない患者さんに、その理由を尋ねたところ、最も多かったのは「話し合う機会がないから」という回答でした。つまり、ACPが進まない理由は、患者さん自身が関心を持っていないことだけではなく、そもそも患者さんが将来について考え、医療者と話し合うための「きっかけ」が十分に提供されていない可能性があります。
これらの結果から、透析医療における患者中心の意思決定を進めるためには、患者さんのヘルスリテラシーを高める取り組むことと、医療者側からACPについて話し合う機会を体系的に提供することが重要であると考えられます。患者さんが「自分はどうしたいのか」を考え、それを家族や医療者と共有できる環境をつくることが、より患者中心の透析医療につながる可能性があります。

ワクチン普及後の血液透析患者におけるCOVID-19への不安と、多面的なヘルスリテラシーとの関連を調査した多施設共同研究です。研究の結果、透析患者のCOVID-19への不安は、パンデミック初期の一般市民より低いことが示されました。一方で、情報を「読んで理解する力」である機能的ヘルスリテラシーが低い患者ほど不安が強く、逆に、情報を「批判的に吟味する力」である批判的ヘルスリテラシーが高い患者ほど不安が強いことが明らかになりました。これらの結果は、医療従事者が患者のリテラシー特性に応じて、平易で理解しやすい情報提供や、情報の適切な解釈を支援することの重要性を示唆しています。本研究は、将来のパンデミック時における患者支援のあり方を考えるうえで重要な知見を提供するものです。
膝関節置換術(KA)は、痛みや身体機能を改善する有効な治療法ですが、術後の回復経過には患者ごとに大きな違いがあります。しかし、術後1年間の機能回復にどのような経過パターン(トラジェクトリ)があるのか、また、その違いを術前の筋機能で予測できるかは十分に分かっていませんでした。
本研究では、手術側の骨格筋指数(SMI)、大腿四頭筋力、位相角(Phase angle: PhA)を術前に測定しました。PhAは、生体電気インピーダンス法(BIA)から得られる指標で、近年では「筋質」や細胞の健康状態を反映する指標として注目されています。また、患者立脚型アウトカムであるKnee Society Score(KSS)の機能活動スコアを用いて、術前から術後12か月までのスコアの変化を評価しました。
その結果、患者は「低機能だが大きく改善する群」など、4つの回復パターンに分類されました。特に、術前のPhAが高い患者ほど、術後に良好な機能回復を示すグループに属する可能性が高いことが分かりました。一方で、骨格筋量(SMI)との関連は限定的でした。
これらの結果から、筋量だけでなく、筋質を反映するPhAを術前に評価することで、術後の回復が不良となるリスクの高い患者を予測できる可能性が示唆されました。

2023年、「日本腰痛学会」では、20–90歳の全国一般住民を対象とした大規模訪問調査「腰痛疫学調査」を実施しました(調査報告書はこちら)。本研究では、この全国調査データを用いて、日本語版オズウェストリー障害指数(ODI version 2.1a:腰痛によって日常生活がどの程度障害されているかを評価する代表的指標)の計量心理学的妥当性を検証するとともに、国民標準値(normative values)の推定を行いました。
解析の結果、ODI version 2.1a は、日本人一般住民において単一の総合スコアとして適切に利用できることが確認されました。さらに、腰痛有訴者におけるODIの国民標準値は平均20.23(標準偏差16.42)であり、腰痛の持続期間によって国民標準値が異なることが示されました(急性腰痛:12.54、亜急性腰痛:13.54、慢性腰痛:22.74)。
これらの知見は、臨床現場における患者の障害度の評価指標として、ODI version 2.1aをより適切に活用するための基盤になることが期待されます。また、日本人一般住民における基準値を提示したことで、今後の腰痛研究や疫学研究における比較指標としての活用も期待されます。
本研究では、福島県立医科大学整形外科学講座の遠藤先生が筆頭著者を担いました。本研究は、二階堂先生、紺野名誉教授らが推進してきた全国腰痛疫学研究プロジェクトの主要テーマの一つとして実施されたものです。指導教員は、調査票の設計、リサーチクエスチョンの定式化、統計解析、論文作成に至るまで、研究全体にわたり中心的に関与しました。
また、ODI version 2.1aの計量心理学的評価については関西大学の脇田貴文教授、全国住民調査データの適正利用については福島県立医科大学医療研究推進センターの小早川雅男教授をはじめ、多くの研究者の支援を受けながら実現した成果でもあります。





