成人の非感染性疾患(がん、糖尿病、うつ病、心疾患、膠原病)の患者を対象に、患者本人及び、患者家族の誤診経験が現主治医への信頼にどの程度影響をおよぼすのかを調べました。主治医に対する信頼は、今回我々が日本語化した11項目の改良版Trust in Physicians Scaleで評価しました。患者および家族の誤診経験は、現主治医に対する信頼の低下と関連していました(平均差 -4.30点、95%CI -8.12点~-0.49点および-3.20点、95%CI -6.34点~-0.05点)。隠れた信頼低下の原因として、患者本人や家族の誤診体験に着目することの重要性が示唆されました。スタンフォード大学医学部のThom教授との共同研究であり、科学研究費補助金の助成(基盤研究(B) 課題番号19KT0021; 研究代表者:栗田; 研究分担者:矢嶋 脇田)を受けたTRUMP2-Netプロジェクト (the Trust Measurement for Physicians and Patients - the Net survey) の成果です。[free-fulltext (全文読めます)][※研究成果が、福島民報に掲載されました。患者らの誤診体験 別の医師でも信頼低下. 福島民報. 2021年7月7日 日刊2ページ. また、福島民友に掲載されました。主治医の信頼度数値化 福島医大 患者への質問票開発. 福島民友. 2021年7月7日 日刊3ページ. また、デンマーク患者安全学会が発行するニュースレターでも紹介されました。Fagligt Nyt om patientsikkerhed, Dansk Selskab for Patientsikkerhed. 加えて、米国Agency for Healthcare Research and Qualityが発行する患者安全に関するレポートでも引用されました。Patient Experience as a Source for Understanding the Origins, Impact, and Remediation of Diagnostic Errors.]
業績
尿中バイオマーカーの1つ、C-megalinが、腎機能やアルブミン尿を反映するか否かを検証した横断研究です。1型糖尿病と2型糖尿病の方1576名を対象にしました。尿中C-megalin濃度と、尿中C-megalin・クレアチニン比はいずれもアルブミン尿の増加とともに上昇することがわかりました。腎機能が保たれているステージに限っては、腎機能が低くなるほど尿中C-megalin濃度の値が高くなる可能性が示されました。C-megalinの臨床的意義については、縦断的な検証が必要です。主指導教員が、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化を進めました。メンターのお1人であった林野泰明先生(天理よろづ相談所病院)のご支援や、きっかけを作ってくださった淺沼克彦教授(千葉大学)や福原教授(京都大学)、分析のご助言をくださったNorton教授(ミシガン大学)など、多くのご縁のお蔭で第一弾を可視化することができました。
終末糖化産物(AGEs:Advanced Glycation End-products)が蓄積しているほど、過活動膀胱である可能性が高いか否かを検証した横断研究です。過活動膀胱は、尿意切迫感(突然にトイレに行きたくなって我慢ができない状況)を中心に、頻尿・夜間頻尿・失禁を伴うものです。膀胱組織における終末糖化産物の関与を示唆する先行研究があったにもかかわらず、健常な後期高齢者においては、過活動膀胱との関連性があるとはいえませんでした。ネガティブスタディーは一般的にアクセプトされにくいですが、臨床研究教育推進部の大前先生が辛抱強く研究を続けて出版されました。臨床研究イノベーションセンターが受託している須賀川市の健康長寿事業から生まれた成果です。主指導教員が解析・論文化で参画させていただいたことに、感謝しております。全文お読みいただけます[free-fulltext]。
停留精巣は男児の先天性疾患で多いものです。福島第一原子力発電所事故後の停留精巣について執筆された論文“Nationwide increase in cryptorchidism after the Fukushima nuclear accident.”に対して、研究デザイン・データ解析手法・考察の妥当性などを多角的に検討しています。ご多忙の小島教授(泌尿器科学講座)が中心となって執筆した長編レビュー論文です。主指導教員はご縁をいただき、先行論文の研究デザインやデータ解析の適切さに対する評価でコミットさせていただきました。全文読めます[free-fulltext]。
血液透析患者の腹部大動脈レベルにおける血管石灰化の2年間の推移(トラジェクトリー)が混合軌跡モデリング(Group-based multi-trajectory modeling)でグループ分けされました。石灰化の急激な増加のグループと、研究開始時点で高度な石灰化があり、ゆっくり増加するグループの両方が、その後の悪い生命予後と関連する結果となっていました。
終末糖化産物(AGEs:Advanced Glycation End-products)が蓄積しているほど、聴力障害である可能性が高いことを示した横断研究です。新畑先生と高橋先生がリサーチ・クエスチョンを考案し、主筆されました。臨床研究イノベーションセンターが受託している須賀川市の健康長寿事業から生まれた成果です。主指導教員が解析・論文化で参画させていただいたことに、感謝しております。
二次性副甲状腺機能亢進症を合併した血液透析患者において、シナカルセト処方開始の有効性がintact PTHの重症度の別に異なるかどうかを調べました。その結果、シナカルセト処方開始の有効性は、iPTH が高いほど大きい可能性があることが示されました。この研究はステアリング委員の先生によるご指導、iHopeの大西良浩様の支援、東北大学の山口拓洋先生、大阪大学の新谷歩先生らのご助言など、多くの先生方のご協力で実現しました。
福島の高齢化地域に在住の成人男性848名を対象にした横断調査です。唾液テストステロン濃度が低いほど、推算糸球体濾過量(eGFR)が低いことを示しました。この関係性は、年齢などの背景因子で補正した上での結果でした。60歳以上の高齢者に限定して分析した場合も同じ結果でした。この研究により、腎機能は男性ホルモンの低下によって減少する可能性が示唆された。今後、縦断的な検証が必要であると考えております。この研究成果は、順天堂大学の 堀江 重郎 教授、本学の整形外科学講座、京都大学医療疫学分野のご縁で実現したものです。堀江先生より、メディカルトリビューンでご紹介いただきました。[テストステロンで男らしさと健やかさを保て!]
慢性腎臓病患者で是正すべきミネラル代謝異常の眼目はカルシウムやリンとされています。近年は、マグネシウム(Mg)も注目されるようになりました。本研究はMgが生命予後に寄与する大きさを見える化するために行われたものです。対象は二次性副甲状腺機能亢進症を合併した血液透析患者3276名のコホート(MBD-5D)です。血清Mgと死亡率の関係性は U 字型でした。特に、血清Mg 2.5-2.7mg/dlを基準にすると、血清Mg≦2.5mg/dlでは死亡率が1.6-1.7倍高いことが明らかとなりました。また、血清Mg≦2.5mg/dlが血清Mg 2.5-2.7mg/dlになった場合、集団レベルで約4分の1の死亡が防げる可能性を示唆しました。