業績

Murashima M, Yamamoto R, Kanda E, Kurita N, Noma H, Hamano T, Fukagawa M.
ビタミンD受容体活性化薬およびカルシウム受容体作動薬と転倒との関係性と身体活動による効果の修飾:日本透析アウトカム研究
Therapeutic Apheresis and Dialysis 2024; 28: 547-556. doi:10.1111/1744-9987.14122
Toida T*, Kurita N*, Abe M, Hanafusa N, Joki N. (*co-first authors)
血清マグネシウム異常が維持血液透析患者の心房細動に与える影響:全国規模の研究
Cardiorenal Medicine 2024; 14: 105–112. doi:10.1159/000536595

血液透析患者における血清マグネシウム値と心房細動の関係を調べた研究です。血液透析治療で2549の施設に通院中の16万5926名を対象に、血清マグネシウム値を、7つのカテゴリー(≦1.5、>1.5-≦2、>2-≦2.5、>2.5-≦3、>3-≦3.5、>3.5-≦4、>4.0mg/dL)に分類して解析を行いました。その結果、基準値(>2.5-≦3mg/dL)と比較して、より低い血清マグネシウム値は心房細動の増加と関連していました(血清マグネシウム値が≦1.5、>1.5-≦2、および>2-≦2.5mg/dLのカテゴリーにおける調整オッズ比はそれぞれ、1.49、1.24、および1.11)。やや高めの血清マグネシウム値は、心房細動の少なさと関連していました(>3.0-≦3.5mg/dLのカテゴリーにおける調整オッズ比は0.87)。血清マグネシウム値の補正が心房細動の発生を減少させるかどうかを明らかにするためには、縦断研究や介入研究による検証が必要です。東邦大学の常喜教授の研究課題に参画し、博士研究員の戸井田先生と主指導教員がリサーチ・クエスチョンの発案と解析論文化でコミットしました。

Joki N*, Toida T*, Nakata K, Abe M, Hanafusa N, Kurita N. (*co-first authors)
血液透析患者の心房細動と虚血性脳卒中の発生の関連性に動脈硬化性疾患が及ぼす影響の評価
Scientific Reports 2024; 14: 1330. doi:10.1038/s41598-024-51439-3

血液透析を受ける患者の動脈硬化性疾患の数が心房細動と虚血性脳卒中の発症との関連を修飾するかどうかを検討しました。15万1350人が分析対象となり、心房細動の有病率は6.5%であり、2019年から2020年の間に対象者全体のうちの3.2%が虚血性脳卒中を発症しました。虚血性脳卒中に対する心房細動の調整オッズ比は1.5でしたが、動脈硬化性疾患の増加とともにオッズ比が減少傾向を示すエビデンスは明確ではありませんでした。主指導教員は、博士研究員とともに研究計画の明確化と解析にコミットしました。

Inanaga R, Toida T, Aita T, Kanakubo Y, Ukai M, Toishi T, Kawaji A, Matsunami M, Okada T, Munakata Y, Suzuki T, Kurita N#. (#corresponding author)
血液透析患者における医師への信頼、多次元ヘルスリテラシー、服薬アドヒアランスの関係性
Clinical Journal of the American Society of Nephrology 2024; 19: 463-471. doi:10.2215/CJN.0000000000000392

日本の血液透析患者を対象に質問紙調査を行い、健康に関する情報を入手して適切に活用する力(ヘルスリテラシー)が服薬を指示通りに続ける程度(服薬の遵守度)にどのように影響するか、またこの影響が医師への信頼度によってどのように中継されるかを調査しました。

その結果、機能的なヘルスリテラシーと伝達的なヘルスリテラシーは、服薬の遵守度と良い関係があることが分かりましたが、批判的なヘルスリテラシーが高いと服薬の遵守度が低下する傾向がありました。さらに、これらのヘルスリテラシーと服薬の遵守度の関係は、医師への信頼によって中継される可能性が示されました。言いかえると、健康情報を理解する力が高いほど、服薬の遵守度が高くなりますが、これは医師の治療の説明などに対する信頼が役割を果たしており、信頼するほど医師の指示通りに服薬を続けられる傾向があるという考えを、研究が支持しました。
この結果から、血液透析患者の服薬の遵守度を向上させるためには、適切なヘルスリテラシーに対応したアプローチだけでなく、医師との信頼関係の構築も重要であることが確認できました。[※研究成果が、福島民報 日刊に掲載されました。福島医大 人工透析患者の服薬行動調査 効用に懐疑で中断の傾向 稲永医師、栗田特任教授のチーム. 福島民報. 2024年1月31日 日刊21ページ. また、研究成果が、福島民友 日刊に掲載されました。医療情報 積極収集する患者 服薬順守度高く 福島医大の稲永医師ら調査. 福島民友. 2024年1月31日 日刊19ページ.]

Nakashima A, Miyawaki Y, Komaba H, Kurita N, Onishi Y, Yokoo T, Fukagawa M.
血液透析患者におけるプロトンポンプ阻害薬と赤血球造血刺激因子への低反応性:J-DOPPS研究
American Journal of Nephrology 2024; 55: 165-174. doi:10.1159/000534701

本研究は、血液透析患者におけるプロトンポンプ阻害薬(PPI)と赤血球造血刺激因子(ESA)抵抗性貧血との関連性を検証しました。これは、鉄の吸収を阻害する可能性があるPPIが、貧血を引き起こす可能性があるという以前の懸念を具体的なデータで裏付けたものです。
Japan Dialysis Outcomes and Practice Patterns Studyの反復測定データを活用した結果、PPI使用者においてエリスロポエチン抵抗性指標(ERI)が高いことが示されました(差分:0.95 IU/週/kg/(g/dl)。ESA投与量(差分:336 IU/週)およびエリスロポエチン抵抗性貧血(割合差:3.9%)にも、明確な差が見られました。また、PPI使用者では、PPIとESA抵抗性貧血を媒介する可能性があると考えられるTSATが低いことも示されました(差分:-0.82%)。
この知見は、PPI使用者が測定の難しい潜在的な消化管出血の病態を反映している可能性がある点に注意が必要です。しかし、同時に、PPI使用者がこの集団の過半数を占めるため(52.7%)、貧血治療の改善が十分でない場合には治療薬の増量だけでなく、PPIの処方の見直しやPPIの処方を必要とする病態を見直すきっかけになるかもしれません。
東京慈恵会医科大学の中島章雄先生がリサーチ・クエスチョンを発案され、主指導教員は研究デザインと解析計画の面で主にコミットしました。

Miyaoka Y, Kurita N#, Sofue T, Nishiwaki H, Koizumi M, Shimizu S, Sasaki S, Ishimoto T, Wada T. (#corresponding author)
日本における特発性膜性腎症に対するリツキシマブの診療パターン2021:腎専門医を対象としたウェブ調査
Clinical and Experimental Nephrology 2024; 28: 217-224. doi:10.1007/s10157-023-02425-y

エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」の出版に伴い、原発性膜性腎症に対するリツキシマブの使用実態を調査しました。
2021年11月から12月にかけて、278の施設で勤務する380名の腎臓専門医からウェブ調査に回答をいただきました。その結果、原発性膜性腎症に対する使用経験の割合は21.8%であり、微小変化型ネフローゼ症候群に対する使用経験の割合の約半分でした。
保険が適用された経験が3分の2あった一方で、保険が適用されない場合が約2割ありました。後者には施設が全額負担した場合と患者さんが全額負担した場合の両方がありました。
東京医大の宮岡先生が主筆となり、多くの先生方のご支援を頂きながら進めて達成できた成果です。主指導教員は特に調査の計画と解析、論文化でコミットしました。

柴垣有吾, 栗田宜明 (担当:共編著者)
臨牀透析2023年9月 日本メディカルセンター 2023; 39: 128.

臨牀透析2023年9月の特集がホープになった!ということで、健康関連ホープ尺度の開発と応用でご一緒させて頂いている柴垣有吾先生より、石橋由孝先生(日本赤十字社医療センター腎臓内科)とともに企画段階からお声掛けいただき、共同編集者として特集に取り組ませて頂きました。
この特集では、主指導教員が尊敬する臨床や研究の同僚や先輩方に玉稿を寄せて頂きました。具体的には、腎透析臨床の実践者や、人生の終末期の心理や意思決定に焦点を当てて診療と研究を行う臨床家、行動医学の専門家に、診療現場での希望の意義やアプローチの仕方について理解を深めることができるよう、具体的にわかりやすくご執筆頂きました
読者の皆様が透析患者さんとより良い治療関係を築き、患者さんの充実した疾病ライフを支えるための一助となることを願ってやみません。

Okamura S*, Nishiwaki H*, Niihata K*, Tsujii S, Ishii H, Hayashino Y, Kurita N, and Diabetes Distress and Care Registry at Tenri Study Group. (*equally contributed)
2型糖尿病患者における身体活動レベルと腎機能低下との関連性:前向きコホート研究
Journal of Nephrology 2023; 36: 2657–2660. doi:10.1007/s40620-023-01691-z

2型糖尿病の方を対象に、身体活動レベルが高いほど、腎機能低下の発生が少ないことを検証したコホート研究が行われました。3397名を対象にしました。具体的には、「中等度の身体活動レベル」とは、軽い荷物を持ったり、一定のペースで自転車をこいだりといった活動を、週に5日以上、30分以上行うことなどを指します。「高い身体活動レベル」とは、週に3日以上ランニングを行うことなどを意味します。腎機能低下は、推定GFR(糸球体濾過量)の30%の低下で評価されました。この研究の結果、身体活動レベルが高いほど、腎機能低下の発生が少ない関係性は、糖尿病性腎臓病の方にも当てはまることが確認されました。主筆は天理よろづ相談所病院の岡村先生であり、主指導教員は解析と論文化にコミットしました。また、林野泰明先生(天理よろづ相談所病院)もメンターの一人として関与し、糖尿病の臨床における一般的な疑問に答えることができました。

Niihata K*, Nishiwaki H*, Kinoshita M, Kurosawa K, Sakuramachi Y, Matsunaga S, Okamura S, Tsujii S, Hayashino Y, Kurita N, and Diabetes Distress and Care Registry at Tenri Study Group. (*co-first authors)
糖尿病患者における尿中C-メガリン濃度と腎機能障害の進行との関係性:コホート研究
Acta Diabetologica 2023; 60: 1643-1650. doi:10.1007/s00592-023-02144-6
Wada T*, Shimizu S*, Koizumi M, Sofue T, Nishiwaki H, Sasaki S, Nakaya I, Oe Y, Ishimoto T, Furuichi K, Okada H, Kurita N. (*co-first authors)
日本における一次性ネフローゼ症候群の診療パターン2021:腎専門医を対象としたWebアンケート調査
Clinical and Experimental Nephrology 2023; 27: 767-775. doi:10.1007/s10157-023-02366-6

エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」の出版に伴い、4つの推奨事項に対する遵守率を調査しました。2021年11月から12月にかけて、306の施設で勤務する434名の腎臓専門医からウェブ調査に回答をいただきました。その結果、腎生検ができない原発性膜性腎症が疑われる症例(CQ1)において、抗ホスホリパーゼA2受容体抗体(保険適用なし)を測定しないと回答したのは41.2%でした。微小変化型ネフローゼ症候群再発後の維持療法で用いられる免疫抑制剤(CQ2)については、シクロスポリンが最も多く選択されました(1回目再発時:72.5%、2回目再発時:75.0%)。ステロイド抵抗性例の原発性巣状分節性糸球体硬化症(CQ3)の治療については、シクロスポリンが最も選ばれました(83.5%)。ネフローゼレベルの蛋白尿を伴う原発性膜性腎症(CQ4)の初期治療では、副腎皮質ステロイド単独療法が最も多く選ばれ(59.6%)、次いで副腎皮質ステロイドとシクロスポリンの併用が選ばれました(28.3%)。以上から、原発性膜性腎症の血清診断および治療に関するガイドラインと実臨床の間にはギャップがあり、腎臓専門医が保険適用の障壁やエビデンス不足に対して積極的な対応を行う必要があることが示唆されました。