業績

Tominaga R*, Ikenoue T*, Ishii R, Niihata K, Aita T, Okuda T, Shimizu S, Taguri M#, Kurita N#. (*co-first authors; #co-last authors)
日本人の骨粗鬆症患者へのロモソズマブとビスフォスフォネート使用による心臓血管系への安全性の比較:操作変数法を用いた新規ユーザーデザイン
Journal of Bone and Mineral Research 2025; doi:10.1093/jbmr/zjaf010 (in press)

この研究は、骨粗鬆症治療薬であるロモソズマブとビスフォスフォネートが心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)の発生に及ぼす影響について、日本の骨粗鬆症患者を対象に比較したものであり、ロモソズマブが心血管疾患リスクを高める可能性が指摘されている中でビスフォスフォネートとの比較を通じてロモソズマブの安全性を評価することを目的としました。日本の医療レセプトデータ(医療機関が診療報酬を請求する際に作成する記録)を利用し、骨粗鬆症の診断を受けたかもしくは脆弱性骨折を経験し、ロモソズマブまたはビスフォスフォネートを新規に処方された患者約6万人弱を対象に分析しました。1年以内の心血管疾患について、ロモソズマブの非調整発生率比は1.08倍(95%信頼区間: 1.00–1.18)であり、さらに操作変数法と呼ばれる治療適応によるバイアスを補正する方法で分析した結果、ロモソズマブのハザード比は1.30倍(95%信頼区間: 0.88–1.90)でした。以上から、ロモソズマブはビスフォスフォネートと比較して1年以内の心血管疾患リスクを有意に増加させる明確なエビデンスがあるとは言えませんでした。この研究は、ロモソズマブの心血管リスクが重大でない可能性を示唆する一方で、統計的パワーが十分でない可能性もあるため、より大規模な疫学研究が望まれます。

滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センターの池之上辰義先生と東京医科大学 医療データサイエンス分野の田栗正隆先生らとの共同成果(チームプロダクト)です。主筆は、富永亮司先生が務められました。主指導教員は、研究計画の立案・解析・論文化支援でフルコミットしました。

Shimizu S*, Niihata K*, Nishiwaki H*, Shibagaki Y, Yamamoto R, Nitta K, Tsukamoto T, Uchida S, Takeda A, Okada H, Narita I, Isaka Y, Kurita N#, and Japan Nephrotic Syndrome Cohort Study group. (*equally contributed; #corresponding author)
特発性ネフローゼ症候群患者におけるレニン-アンジオテンシン系阻害薬の新規処方と初回の完全寛解との関係性:全国コホート研究
Clinical and Experimental Nephrology 2023; 27: 480-489. doi:10.1007/s10157-023-02331-3

ネフローゼ症候群GL作成ワーキンググループから発案されたクリニカル・クェスチョン、膜性腎症などの特発性ネフローゼ症候群の治療中に処方されるレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬は、はたして完全寛解に有効なのか?を検証しました。尿蛋白・腎機能などのように時々刻々と変化する交絡因子を調整するため、周辺構造モデルで解析しました。副腎皮質ステロイドやその他の免疫抑制剤が約9割の患者に投薬された中、約3分の2の患者でRAS阻害薬が新たに処方されました。特に膜性腎症ではRAS阻害薬の新規処方により、完全寛解が高く発生する可能性が示されました(調整発生率比2.27倍)。清水さやか先生(京都大学)・博士研究員の西脇宏樹先生・新畑覚也先生を中心に解析・論文化が進められました。主指導教員は、当時のワーキンググループリーダーの柴垣教授(聖マリアンナ医科大学)によるご縁でリサーチ・クエスチョンの発案に関わり、清水先生・新畑先生・西脇先生の解析・論文化支援にコミットしました。研究成果は、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 難治性腎障害に関する調査研究 研究班の業績として報告されました。

Tokumoto M, Tokunaga S, Asada S, Endo Y, Kurita N, Fukagawa M, Akizawa T
二次性副甲状腺機能亢進症を有する血液透析患者におけるエボカルセットの高用量投与を要する因子
PLOS ONE 2022; 17: e0279078. doi:10.1371/journal.pone.0279078

第3相データの最終的なエボカルセット(カルシウム受容体作動薬)の投与量に着目し、評価期間(28週~30週)における血清インタクトPTH(iPTH)値、補正カルシウム(Ca)値、リン酸(P)値、安全性が分析されました。また、高用量のエボカルセットの使用を予測する治療開始前の患者特性を評価しました。若年・シナカルセットの使用歴・血清iPTHと補正Ca・プロコラーゲン1型N末端プロペプチド・FGF-23の高値,副甲状腺最大容積の大きさが、高用量のエボカルセット投与と関連していました。肥大した副甲状腺ではカルシウム感受性が低下していること、骨回転が亢進している状態であることが改めて示唆されました。主指導教員が主に分析のアプローチ面からコミットしました。

栗田宜明
腎疾患における臨床研究の進歩 【臨床研究の最新手法】周辺構造モデル
腎と透析 東京医学社 2022; 93巻3号(9月号): 335-340.

腎透析領域の臨床研究で応用されている周辺構造モデル(marginal structural model)について解説しています。特に、周辺構造モデルを必要とする臨床セッティングとクリニカル・クェスチョンの例、周辺構造モデルで用いられる統計モデルの例、解釈の仕方や注意点について説明を試みました。

Sada KE*, Kurita N*, Noma H*, Matsuki T*, Quasny H, Levy AR, Jones-Leone RA, Gairy K, Yajima N* (*Equally contributed)
MOONLIGHT研究:Belimumabの市販後データと日本ループス全国登録コホート(LUNA)からループス腎炎に対するBelimumabの有効性を検証する研究のプロトコル論文
Lupus Science & Medicine 2022; 9: e000746. doi:10.1136/lupus-2022-000746

全身性エリテマトーデス(SLE)の治療に用いられるベリムマブ(belimumab)が、維持期のループス腎炎の再発予防に有効性があるかどうかを検証する研究(MOONLIGHT研究)のプロトコール論文です。

栗田宜明
福島リポート(第30回) 東日本大震災・原発事故の臨床疫学 数字の一人歩きにご注意!
日本医事新報 (株)日本医事新報社 2019; 54-59.

東日本大震災・原発事故の前後で病気が増えた、うつが増えた、…などといった研究が数多く出版されています。しかし、その増加は本当に原発事故のせいなのか?大震災のせいなのか?デザイン面で考える必要があります。この原稿では、分割時系列解析(interrupted time series analysis)を用いた臨床研究の読み方について解説しています。

Haga N, Kurita N, Yanagida T, Ogawa S, Yabe M, Akaihata H, Hata J, Sato Y, Ishibashi K, Hasegawa O, Kojima Y
ロボット支援下前立腺摘出術における、有棘性縫合糸による縫合が組織ダメージと下部尿路症状の縦断変化へ与える影響
Surgical Endoscopy 2018; 32: 145-153. doi:10.1007/s00464-017-5649-z
[ 紹介記事(研究支援) ]

前立腺がんの手術治療時に使われる縫合糸の違いで、手術後の尿道・尿道周囲の傷害の程度や、排尿の機能・QOLに一時的な違いが生じることを示しました。当時、泌尿器科学講座におられた羽賀先生がリサーチ・クエスチョンを考案され、弊分野の教員が、研究計画・解析論文化で参画させていただきました。この論文が発信されてから2年後の2020年度、羽賀先生は福岡大学医学部 腎泌尿器外科学講座の主任教授にご就任されました [詳しくはこちら]。

Akizawa T*, Kurita N*, Mizobuchi M, Fukagawa M, Onishi Y, Yamaguchi T, Ellis AR, Fukuma S, Alan Brookhart M, Hasegawa T, Kurokawa K, Fukuhara S. (*co-first authors)
二次性副甲状腺機能亢進症を伴う血液透析患者における、シナカルセトのPTH依存的な有効性
Scientific Reports 2016; 6: 19612. doi:10.1038/srep19612
[ 紹介記事(日本骨代謝学会) ]

二次性副甲状腺機能亢進症を合併した血液透析患者において、シナカルセト処方開始の有効性がintact PTHの重症度の別に異なるかどうかを調べました。その結果、シナカルセト処方開始の有効性は、iPTH が高いほど大きい可能性があることが示されました。この研究はステアリング委員の先生によるご指導、iHopeの大西良浩様の支援、東北大学の山口拓洋先生、大阪大学の新谷歩先生らのご助言など、多くの先生方のご協力で実現しました。