栗田宜明
日本透析医会雑誌 2024; 39: 85-92.

この総説は、市中病院からでも国際学会や学術英文論文に臨床研究を発表できるかな?と憂いている医療者の声を耳にしたことを契機に誕生しました。主指導教員がクリニカル・クェスチョンの着想のヒントやフレームワークへの落とし込み方を中心に解説しています。腎臓・透析領域での自験例や臨床疫学研究の先駆者のエッセイや発表を見聞した体験を交えて、疑問を深めていくための実例を示しています。

Koizumi M, Ishimoto T, Shimizu S, Sasaki S, Kurita N*, Wada T*. (*co-last authors)
成人微小変化症候群に対するリツキシマブ療法の日本における診療パターン2021:腎臓専門医を対象としたWebアンケート調査
PLOS ONE 2024; 19: e0299053. doi:10.1371/journal.pone.0299053

エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」の出版に伴い、微小変化型ネフローゼ症候群に対するリツキシマブの使用実態を調査しました。
2021年11月から12月にかけて、380名の腎臓専門医からウェブ調査に回答をいただきました。その結果、微小変化型ネフローゼ症候群に対する使用経験は47.6%でした。
リツキシマブ療法が保険適用にならなかった経験があるとの回答が15.5%ありました。
リツキシマブ療法の適応症例を治療する機会があったとしても、54.4%が投与を差し控えると回答しました。最も多い理由は、保険適用とならないことによる費用負担が約80%を占めました。
東海大学の小泉先生が主筆となり、多くの先生方のご支援を頂きながら進めて達成できた成果です。主指導教員は特に調査の計画と解析、論文化でコミットしました。

Kanakubo Y, Kurita N#, Ukai M, Aita T, Inanaga R, Kawaji A, Toishi T, Matsunami M, Munakata Y, Suzuki T, Okada T. (#corresponding author)
血液透析における人を中心に据えた医療の質とアドバンスケアプランニングへの参加との関連性
BMJ Supportive & Palliative Care 2024; doi:10.1136/spcare-2024-004831 (in press)

Sasaki S, Shimizu S, Nakaya I, Miyaoka Y, Koizumi M, Nishiwaki H, Sofue T, Ishimoto T, Kurita N*, Wada T*. (*co-last authors)
膜性腎症が疑われる患者における抗ホスホリパーゼA2受容体抗体測定の選好:ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020年版発行後の診療実態調査
Clinical and Experimental Nephrology 2024; 28: 531-538. doi:10.1007/s10157-024-02462-1

エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020」の出版に伴い、原発性膜性腎症が疑われるネフローゼ症候群に対する診断検査「抗ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)抗体」の使用実態と使用の選好を調査しました。
2021年11月から12月にかけて、306の施設で勤務する427名の腎臓専門医からウェブアンケート調査に回答をいただきました。その結果、現職場での測定経験があったのは140名(32.8%)でした。腎生検の禁忌のない原発性膜性腎症が疑われる症例では、回答者の147人(34.4%)が抗PLA2R抗体検査を測定する意向を示しました。
さらに、現在の職場の限られたキャパシティーと職場や患者への検査費用の負担が測定を妨げている可能性も示唆されました。
京都大学の佐々木先生が主筆となり、多くの先生方のご支援を頂きながら進めて達成できた成果です。主指導教員は特に調査の計画と解析、論文化でコミットしました。

Murashima M, Yamamoto R, Kanda E, Kurita N, Noma H, Hamano T, Fukagawa M.
ビタミンD受容体活性化薬およびカルシウム受容体作動薬と転倒との関係性と身体活動による効果の修飾:日本透析アウトカム研究
Therapeutic Apheresis and Dialysis 2024; 28: 547-556. doi:10.1111/1744-9987.14122
Toida T*, Kurita N*, Abe M, Hanafusa N, Joki N. (*co-first authors)
血清マグネシウム異常が維持血液透析患者の心房細動に与える影響:全国規模の研究
Cardiorenal Medicine 2024; 14: 105–112. doi:10.1159/000536595

血液透析患者における血清マグネシウム値と心房細動の関係を調べた研究です。血液透析治療で2549の施設に通院中の16万5926名を対象に、血清マグネシウム値を、7つのカテゴリー(≦1.5、>1.5-≦2、>2-≦2.5、>2.5-≦3、>3-≦3.5、>3.5-≦4、>4.0mg/dL)に分類して解析を行いました。その結果、基準値(>2.5-≦3mg/dL)と比較して、より低い血清マグネシウム値は心房細動の増加と関連していました(血清マグネシウム値が≦1.5、>1.5-≦2、および>2-≦2.5mg/dLのカテゴリーにおける調整オッズ比はそれぞれ、1.49、1.24、および1.11)。やや高めの血清マグネシウム値は、心房細動の少なさと関連していました(>3.0-≦3.5mg/dLのカテゴリーにおける調整オッズ比は0.87)。血清マグネシウム値の補正が心房細動の発生を減少させるかどうかを明らかにするためには、縦断研究や介入研究による検証が必要です。東邦大学の常喜教授の研究課題に参画し、博士研究員の戸井田先生と主指導教員がリサーチ・クエスチョンの発案と解析論文化でコミットしました。

Joki N*, Toida T*, Nakata K, Abe M, Hanafusa N, Kurita N. (*co-first authors)
血液透析患者の心房細動と虚血性脳卒中の発生の関連性に動脈硬化性疾患が及ぼす影響の評価
Scientific Reports 2024; 14: 1330. doi:10.1038/s41598-024-51439-3

血液透析を受ける患者の動脈硬化性疾患の数が心房細動と虚血性脳卒中の発症との関連を修飾するかどうかを検討しました。15万1350人が分析対象となり、心房細動の有病率は6.5%であり、2019年から2020年の間に対象者全体のうちの3.2%が虚血性脳卒中を発症しました。虚血性脳卒中に対する心房細動の調整オッズ比は1.5でしたが、動脈硬化性疾患の増加とともにオッズ比が減少傾向を示すエビデンスは明確ではありませんでした。主指導教員は、博士研究員とともに研究計画の明確化と解析にコミットしました。

Kamitani T, Wada O, Mizuno K, Kurita N.
人工膝関節置換術後における非術側の膝痛の増悪と機能的活動度への影響
Archives of Orthopaedic and Trauma Surgery 2024; 144: 1713–1720. doi:10.1007/s00402-023-05163-8

変形性膝関節症で手術を要する患者さんでは、しばしば手術が予定されている側とは反対側にも膝関節症があり、両側の膝の痛みを有している場合があります。片方の手術をした後で、手術をしていない側(非術側)の膝の痛みがどのように変化するかを調べ、さらに運動機能に与える影響を評価しました。
その結果、手術してから半年後、非術側の膝の痛みを経験した患者さんが27.6%いました。非術側の膝関節症の重症度が高い場合や、筋力が弱い場合にそのようになりやすいことがわかりました。また、非術側の膝の痛みが術後に強いほど、その後の機能的活動度が低下しやすいことも明らかになりました。京都大学の 紙谷司先生が主筆で、あんしん病院の和田先生らとともに発信したチームプロダクトです。指導教員の栗田宜明が研究デザインの立案から始めたプロジェクトからの成果であり、解析・論文化までを支援しました。

Inanaga R, Toida T, Aita T, Kanakubo Y, Ukai M, Toishi T, Kawaji A, Matsunami M, Okada T, Munakata Y, Suzuki T, Kurita N#. (#corresponding author)
血液透析患者における医師への信頼、多次元ヘルスリテラシー、服薬アドヒアランスの関係性
Clinical Journal of the American Society of Nephrology 2024; 19: 463-471. doi:10.2215/CJN.0000000000000392

日本の血液透析患者を対象に質問紙調査を行い、健康に関する情報を入手して適切に活用する力(ヘルスリテラシー)が服薬を指示通りに続ける程度(服薬の遵守度)にどのように影響するか、またこの影響が医師への信頼度によってどのように中継されるかを調査しました。

その結果、機能的なヘルスリテラシーと伝達的なヘルスリテラシーは、服薬の遵守度と良い関係があることが分かりましたが、批判的なヘルスリテラシーが高いと服薬の遵守度が低下する傾向がありました。さらに、これらのヘルスリテラシーと服薬の遵守度の関係は、医師への信頼によって中継される可能性が示されました。言いかえると、健康情報を理解する力が高いほど、服薬の遵守度が高くなりますが、これは医師の治療の説明などに対する信頼が役割を果たしており、信頼するほど医師の指示通りに服薬を続けられる傾向があるという考えを、研究が支持しました。
この結果から、血液透析患者の服薬の遵守度を向上させるためには、適切なヘルスリテラシーに対応したアプローチだけでなく、医師との信頼関係の構築も重要であることが確認できました。[※研究成果が、福島民報 日刊に掲載されました。福島医大 人工透析患者の服薬行動調査 効用に懐疑で中断の傾向 稲永医師、栗田特任教授のチーム. 福島民報. 2024年1月31日 日刊21ページ. また、研究成果が、福島民友 日刊に掲載されました。医療情報 積極収集する患者 服薬順守度高く 福島医大の稲永医師ら調査. 福島民友. 2024年1月31日 日刊19ページ.]

Yasunaka M, Tsugihashi Y, Hayashi S, Iida H, Hirose M, Shirahige Y, Kurita N, and the ZEVIOUS group.
在宅医療患者における期待余命と生活の質および健康関連ホープとの関係性:ZEVIOUS研究
PLOS ONE 2023; 18: e0295672. doi:10.1371/journal.pone.0295672

東京・奈良・長崎で在宅医療を受ける患者の期待余命(どれぐらいの年数を生きるかを担当医が予測したもの)と生活機能、QOL、およびホープとの関係性を横断的に分析しました。生活機能はWHODAS 2.0(高得点ほど機能と障害が悪い)で、QOLはQOL-HC(高得点ほどQOLが高い)で、ホープは健康関連ホープ尺度のドメインスコア(「健康」、「役割とつながり」、「生きがい」:高得点ほど希望が高い)で評価しました。期待余命が短いほどQOLスコアが高くなる一方で、生活機能は低くなることがわかりました。期待余命が短いほど、「生きがい」スコアは低くなる一方で、「役割とつながり」については顕著な違いは示されませんでした。
長崎在宅Dr.ネット・天理よろづ相談所白川分院と奈良県内でご活躍の先生方・医療法人社団鉄祐会とチームで行う、ZEVIOUS研究(Zaitaku Evaluative Initiatives and Outcome Study)の成果(チームプロダクト)です。主筆は安中正和先生が務められ、次橋幸男先生が加勢しました。主指導教員は、ロジスティクスを含めた研究計画の立案・解析・論文化でフルコミットしました。